会社へ出勤する朝は、世界でどれくらい普通なのか
朝になったら会社へ向かい、雇用主から給料を受け取る。日本で身近なこの働き方を、世界中へそのまま広げて想像してよいのだろうか。仕事の種類や労働時間を比べる前に、「誰かに雇われて働く人」と、それ以外の関係で働く人の割合を見てみよう。
世界銀行が収録するILOの推計には、就業者に占める自営業の割合がある。2024年の値は、日本が約9.3%、韓国が約22.9%、インドネシアが約53.7%、インドが約75.4%。同じ「働く人」を百人並べても、その中身は大きく違う。
ただし、この統計の自営業は、独立した専門職や新しい会社を作る起業家だけを指すものではない。雇用主として人を雇う人、一人や共同で事業を営む人、生産者協同組合の構成員、家族の事業を手伝う人なども入る。街の働く風景を、職業名とは別の切り口で並べる統計なのだ。
百人の働き手を並べると、少数派と多数派が入れ替わる
最初の図は2024年の八か国を比べたものだ。インドとケニア、インドネシアでは、自営業に分類される人が就業者の半分を超える。日本での感覚から「雇われずに働く人は少数派」と考えていると、まずここで地図の見え方が変わる。
インドは約75.4%、ケニアは約64.9%、インドネシアは約53.7%。同じ百人という小さな集団へ縮めれば、それぞれ約七十五人、六十五人、五十四人に当たる。ブラジルは約30.5%、韓国は約22.9%で、日本の約9.3%よりも高い。
一方、米国は約6.2%、ノルウェーは約4.9%となる。起業や独立という言葉から思い浮かべる国の印象と、この大きな分類の比率は必ずしも同じ並びにならない。自営業の割合を、そのまま新興企業の活発さの順位へ読み替えられないことが分かる。
図は選んだ八か国の比較で、世界全体の上位や下位を並べたものではない。それでも、一つの国で普通に見える雇用の関係が、別の国では別の構成になるという違いは十分に見える。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | 値 |
|---|---|
| インド | 75.4 |
| ケニア | 64.9 |
| インドネシア | 53.7 |
| ブラジル | 30.5 |
| 韓国 | 22.9 |
| 日本 | 9.2 |
| 米国 | 6.2 |
| ノルウェー | 4.9 |
二十四年を辿ると、低下しても同じ場所へは着かない
二つ目の図では、日本、韓国、インドネシア、インドを2000年から辿る。始点と2024年の値を比べると、四か国はいずれも自営業の割合が低下している。しかし到達した水準は同じではない。
日本は約16.1%から9.3%、韓国は32.7%から22.9%、インドネシアは67.3%から53.7%、インドは84.7%から75.4%へ動いた。雇われる働き方の側が比率を広げる方向でも、出発点の違いは現在の構成に残っている。
日本では二〇〇〇年に六人に一人程度だった割合が、二〇二四年には十一人に一人程度へ近づく。一方インドでは、低下した後も四人に三人ほどになる。同じ「下がった」という一言だけでは、街にいる働き手の風景がどれほど違うかを伝えきれない。
なお、この線は今回取得した同じ版の推計値を使っている。年ごとに当時の記事から数字を拾い集めたものではない。国と年の条件を揃えることで、出発点と変化の道筋を一緒に眺められる。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | 日本 | 韓国 | インドネシア | インド |
|---|---|---|---|---|
| 2,000 | 16.1 | 32.7 | 67.3 | 84.7 |
| 2,001 | 15.4 | 32.9 | 64.1 | 84.6 |
| 2,002 | 15.0 | 32.7 | 64.0 | 84.6 |
| 2,003 | 14.8 | 31.9 | 65.6 | 84.5 |
| 2,004 | 14.7 | 31.6 | 64.2 | 84.4 |
| 2,005 | 14.3 | 31.3 | 61.9 | 84.2 |
| 2,006 | 13.6 | 30.7 | 61.4 | 84.0 |
| 2,007 | 13.1 | 29.9 | 61.7 | 83.8 |
| 2,008 | 12.8 | 29.5 | 61.2 | 83.7 |
| 2,009 | 12.5 | 28.4 | 61.0 | 83.6 |
| 2,010 | 12.1 | 27.6 | 59.9 | 83.4 |
| 2,011 | 11.7 | 27.1 | 57.2 | 82.2 |
| 2,012 | 11.6 | 27.1 | 54.6 | 81.1 |
| 2,013 | 11.3 | 26.5 | 54.2 | 80.6 |
| 2,014 | 11.2 | 26.0 | 53.8 | 80.1 |
| 2,015 | 10.9 | 25.9 | 51.5 | 79.5 |
| 2,016 | 10.5 | 25.5 | 51.6 | 79.0 |
| 2,017 | 10.3 | 25.4 | 51.7 | 78.4 |
| 2,018 | 10.2 | 25.1 | 52.5 | 77.8 |
| 2,019 | 9.9 | 24.6 | 52.4 | 77.2 |
| 2,020 | 9.9 | 24.4 | 53.5 | 77.2 |
| 2,021 | 10.4 | 23.9 | 53.1 | 76.7 |
| 2,022 | 9.5 | 23.5 | 53.4 | 76.9 |
| 2,023 | 9.5 | 23.2 | 54.0 | 76.1 |
| 2,024 | 9.2 | 22.9 | 53.7 | 75.4 |
自営業という箱の中に、店主も家族の働き手もいる
ILOが説明する雇用上の地位は、仕事から得る報酬や、その仕事との関係に注目した分類だ。雇用主として継続的に人を雇う人と、従業員を雇わず自分で事業を行う人は、どちらも自営業の側に含まれるが、内訳では分けて扱われる。
家族の事業を手伝う働き手も、この大きな箱に入る。たとえば家族が営む店や事業で働く人を考えると、「自営業」と聞いて一人の社長だけを思い浮かべると狭すぎることが分かる。本人が会社を設立した人でなければ自営業ではない、という分類ではないのだ。
同じ百人中五十人という比率でも、その五十人が雇用主中心なのか、一人で働く人中心なのか、家族の事業を支える人が多いのかで、仕事の姿は違う。この図では大分類までを比べており、内訳の構成は別途確かめる必要がある。
仕事の自由さや収入の高さも、この大分類だけでは決まらない。自分で商売をするという同じ言葉の中に、規模も契約も異なる働き方がある。比率の大きさを見つけたあとに、その中身を知りたくなるところが、この統計のよい入口になる。
たとえば同じ料理を作る仕事でも、飲食店に雇われる人と、自分の店を営む人では雇用上の地位が変わる。同じように物を修理する仕事でも、企業の従業員と自分の事業を持つ人は別の側に入る。仕事内容だけを見た職業の分類と、働く関係を見た分類が、直交していることが分かる。
このため自営業の比率が動いても、それだけで農業からサービス業へ移った人数などを計算することはできない。業種を知りたければ業種の列も重ねる必要があり、二つの軸を合わせて初めて働き方の変化が具体的になる。
日本と韓国は、近くても同じ構成ではない
日本と韓国を並べると、2024年には約9.3%と22.9%で、韓国が日本の約二・五倍になる。地理的に近い国同士でも、就業者の中で自営業が占める位置はかなり違う。
2000年の時点では日本が約16.1%、韓国が約32.7%。差は約16.6ポイントだった。2024年の差は約13.6ポイントなので、比率の差としては少し縮んでいる。それでも水準は並んでいない。
日本の線を五年ごとに見ると、2005年14.3%、2010年12.1%、2015年10.9%、2020年9.9%となる。韓国は同じ順に31.3%、27.6%、25.9%、24.4%。両国とも下がる方向を持ちながら、違う高さを辿ってきたことが分かる。
ここから、特定の制度や一つの出来事だけが差を生んだと結論することはできない。ただ、一時点の二本の棒を時間の線へ伸ばすと、現在の差が突然現れたものではないことは確かめられる。近い国を同じと思い込まず、長い記録で似ている部分と違う部分を分けて眺められる。
インドネシアの線は、下がり続ける一本線ではない
始点と終点だけを見ると、インドネシアは約67.3%から53.7%へ低下した。しかし途中を見ると、2015年には約51.5%まで下がり、その後の2020年は53.5%、2024年は53.7%となっている。
二〇〇〇年から二〇二四年までの差だけでは、「低下した」という説明になる。一方、二〇一五年から後を見ると、約2.2ポイント高くなっている。同じ国の同じ系列でも、どこから時間を測り始めるかで、変化の向きが違って見えるのだ。
これは都合のよい期間を選んで結論を入れ替えるための話ではない。むしろ全期間を一本の線として見せることで、途中の曲がり方を隠さずに読める。二つの時点だけでは消えてしまう履歴がある。
なお割合の上昇は、その期間の自営業者の人数が同じ割合だけ増えたという意味ではない。就業者全体の人数も分母に入るため、人数の変化を調べるには別の系列が必要になる。まずは構成の変化として読むと、折れ線の途中の動きを落ち着いて追える。
インドは下がった後も、四人に三人に近い
インドでは、2000年の約84.7%から、2010年は83.4%、2020年は77.2%、2024年は75.4%へ動く。今回の四か国の中では、高い水準を保ちながら低下してきた。
日本の2000年から2024年までの低下は約6.9ポイント、インドは約9.3ポイントだ。ポイントの差で見るとインドのほうが大きい。しかし元の水準に対する割合で見ると、日本は約四十三パーセントの縮小、インドは約十一パーセントの縮小になる。
どちらの計算も、同じ二つの値を別の角度で比べている。もともと高かった割合が何ポイント変わったかと、出発点に対してどれくらい縮んだかは、同じ数字にはならない。
この違いを知ると、働き方の変化を一つの速さだけで順番づけるのが難しい理由が分かる。大きな構成比を持つ国には、その国の出発点がある。日本の現在地を世界共通の終点と見なすより、それぞれの線がどこから来たのかを読むほうが、世界の働く姿を豊かに想像できる。
人口が多い国だから、比率も高いわけではない
この統計の分母は就業者であり、国の総人口ではない。子どもや仕事をしていない人も含む住民百人のうち何人が自営業か、という割合ではない点を区別したい。
また、割合の比較では国の大きさそのものを一度取り除いている。仮に就業者が千万人の国でも一億人の国でも、自営業がその二割なら、図の棒は同じ二十パーセントになる。実際の人数は十倍違っても、構成比は同じである。
そのためインドの高い比率を、単に人口が多いからと説明することはできない。人口や就業者数が多いことは人数の大きさには関係するが、分子と分母を割った構成比が必ず高くなる理由にはならない。
世界の合計を作る場合には、今度は就業者数による重みが必要になる。八か国の比率を単純に足して八で割っても、世界の就業者に占める自営業の割合にはならない。国を一票ずつ数える平均と、人を一人ずつ数える平均は別なのだ。
自営業と、インフォーマルな仕事は同じ区分ではない
もう一つ混ざりやすいのが、自営業とインフォーマルな雇用という言葉である。ILOの説明では、インフォーマルな雇用には自営業だけでなく、賃金を受け取って働く人の仕事も含まれうる。登録や制度上の保護など、見ている条件が違うためだ。
したがって、自営業の割合が九割なら九割がインフォーマル、低ければすべて十分に保護された雇用、という対応にはならない。雇用上の地位と、制度の適用・保護の状態は、重ねて調べることのできる別の軸である。
同じように、雇われていることと正社員であることも同義ではない。ILOが扱う非標準的な雇用には、一時的な雇用、短時間の仕事、派遣など複数の形がある。この記事の自営業の棒の外側を、すべて同じ雇用条件の会社員と考えると単純化しすぎてしまう。
ここでの題名の「会社員」は身近な入口だが、統計としてはより広い雇用の関係を見ている。公的な組織などに雇われる仕事もある。勤め先の名前よりも、どんな関係で働き報酬を受け取るのかへ視点を替えると、普段の職業のイメージとは違う世界の分類が現れる。
推計の線は、働く人の名簿を直接数えたものではない
今回使った系列はILOのモデルによる推計を世界銀行が収録したものだ。各国で得られる労働統計を国際比較に使うための系列であり、世界中の就業者一人ひとりの名簿を直接集めた集計ではない。
元になる統計の収集方法や対象期間には国による違いがある。新しい情報を取り込んで推計が改訂されれば、過去の年の値も変わることがある。そのため記事では、取得日を揃えた同じ版で国と年を比較している。
グラフの数値は小数まで存在するが、本文ではおおむね小数第一位に丸めた。百人の働き手へたとえるときには、さらに人数の規模として読む。小数点以下の細かな差を、街で観察できる一人単位の確実な違いと取り違えないためである。
一方で、数パーセントと七十パーセント台という大きな開きは、丸め方を替えても残る。推計であることを押さえつつ、桁や水準の違いから世界の働き方を眺める。細部の精密さと大きな構成の違いを分けると、統計の得意なところを使いやすくなる。
街の風景に、もう一つの分類を重ねる
通りの店、家族の事業、農業を営む人、会社の事務所、雇用主として人を迎える経営者。同じ「仕事がある」という状態でも、仕事と報酬の関係は一つではない。
今回の二つの図からは、日本で少数派に見える自営業の分類が、選んだ国の中には多数派となる場所もあること、同じ国でも長い時間の中で構成が動くことが分かった。さらにインドネシアのように、全期間では低下していても途中からは上がる線があった。
この数字だけで働きやすさの順位を決めることはできないが、世界の仕事を会社員中心の一枚絵で想像していたなら、その絵を描き足すきっかけになる。労働時間や賃金を比べる前に、そもそもどんな関係で働く人が多いのかを見ておく価値がある。
次に外国の街や市場の風景を見るとき、職業の名前だけでなく、その人は誰かに雇われているのか、自分の事業なのか、家族の事業を支えているのか、と考えてみる。世界の就業統計は、普段の働く風景へ別の輪郭を与えてくれる。
辿った記録
データ取得・確認:2026年10月1日。比較は図に記した対象年・取得版による。本文を全面的に書き直し、図表と出典を更新しました。

