雨が多い日本より、雨の少ないカナダに水が多い?
雨の多い国なら、水も豊かだ。傘を持って出かける日の多さを考えると、そう思いたくなる。ところが世界の統計を開くと、少し意外な組み合わせが見つかる。日本の平均降水量は年1,668mm、カナダは537mm。それでも、国内で生まれる再生可能な淡水資源の総量は、カナダのほうが大きい。
さらに総量ではブラジルが大きく、一人当たりに直すとアイスランドがぐっと前へ出る。同じ水についての数字なのに、眺める物差しを替えると地図の主役が入れ替わるのだ。
今回は世界銀行が収録するFAOの水資源データを使い、ブラジル、カナダ、インド、日本、アイスランド、エジプトの六か国を比べる。世界上位の国を選んだ順位表ではなく、雨、広さ、人口、国境を越える流れの違いを楽しむための比較だ。国の水を三つの大きさへ分けてみると、身近な雨の日が世界の地理につながっていく。
国全体の水を比べると、ブラジルの棒が長い
最初の図で使うのは「国内再生可能淡水資源」の総量。国内の降水に由来する川の流れや地下水の補給などを、長期の年平均で捉えた指標である。国の中に今たまっている水の全部を量ったものではない。
データベースの2022年欄では、ブラジルが年5,661立方キロメートル、カナダが2,850、インドが1,446、日本が430、アイスランドが170、エジプトが1となる。ブラジルの値は日本の約十三倍、カナダも約七倍に近い。国内で生まれる水の流れを国全体の体積として数えると、これだけの違いがある。
立方キロメートルという単位は、日常の水道メーターより桁が大きい。一辺一キロメートルの立方体なら、体積は十億立方メートルになる。ただしグラフの数字は、そうした巨大な水槽が国に置いてあるという意味ではない。年当たりの流れの規模を、体積の単位へ揃えたものだ。
ここではまず、人口をいったん脇に置いている。広い国と小さな国を、それぞれ一つの領域として数えた結果である。この見方でブラジルが先頭に立つことと、住民一人分で見たときにどこが大きいかは、別の問いになる。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | 値 |
|---|---|
| ブラジル | 5,661 |
| カナダ | 2,850 |
| インド | 1,446 |
| 日本 | 430 |
| アイスランド | 170 |
| エジプト | 1 |
人口で割ると、アイスランドが前に出る
同じ六か国を一人当たりに直すと、順番が大きく変わる。アイスランドは年間約445,023立方メートル、カナダは約73,170、ブラジルは約26,918、日本は約3,437、インドは約1,014、エジプトは約9となる。
総量ではブラジルのほうがアイスランドより三十三倍ほど大きかった。ところが一人当たりでは、アイスランドがブラジルの約十七倍になる。総量の数字を否定したのではなく、人口という分母を入れて別の質問へ答えた結果だ。
日本とインドにも同じ仕掛けが見える。インドの総量は日本の三倍を超えるが、一人当たりでは日本のほうが約三・四倍になる。水の量だけではなく、その量をどれほど多くの人口で割るかによって、国の見え方が変わる。
この一人当たり量は、住民に実際に配られる水の割当ではない。全国の値を人口で均等に割った比較用の指標だ。住む場所や季節が違えば、身近な川や水道の状況も違う。それでも、国の規模を揃えて見るための割り算としては役に立つ。二つの図を続けて眺めると、大きな国の水と、一人分に換算した水が別の景色であることを一目で確かめられる。
カナダとブラジルも比べてみると、総量ではブラジルが約二倍だが、一人当たりではカナダが約二・七倍になる。逆転は小さな島国だけの特殊な現象ではない。国土の広い国同士でも、人口を分母に加えると別の関係が現れる。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | 値 |
|---|---|
| アイスランド | 445,022.7 |
| カナダ | 73,170.5 |
| ブラジル | 26,917.9 |
| 日本 | 3,436.6 |
| インド | 1,014.4 |
| エジプト | 8.9 |
雨のミリメートルは、国の水の体積ではない
では、最初に出てきた日本とカナダの逆転はどう考えればよいのだろう。年降水量のミリメートルは、雨や雪などの降水を水の深さにした物差しである。同じ深さでも、その下にある面積が違えば体積は変わる。
たとえば一平方メートルの面積に一ミリメートルの雨が降ると、体積は一リットルになる。同じ一ミリメートルでも、面積が十倍なら水の体積も十倍だ。これは国についての推計ではなく、単位をつなぐための計算である。雨の深さの棒だけでは、国全体に降る体積の棒を再現できないことが分かる。
しかも、降った水がすべてそのまま川の流れや地下水の補給になるわけではない。水資源の集計には、蒸発散や流れのつながりを考える必要がある。降水量に国土面積を掛ければ、そのまま今回の淡水資源量が完成する、というわけでもないのだ。
日本の降水量はカナダの約三・一倍だが、国内水資源の総量はカナダが日本の約六・六倍になる。この二つは矛盾しない。雨の深さと、国全体で生まれる水の体積という違う単位の比較をしていたことが、逆転の出発点である。
三つの物差しを、一つの国に重ねてみる
アイスランドの平均降水量は年1,940mm。今回の六か国では大きい側にあるが、日本の約一・二倍であって、百倍以上ではない。一方、一人当たりの国内水資源は日本の約百二十九倍になる。
雨の深さの差よりも一人当たりの差がずっと大きいのは、後者には国全体の水資源量と人口の両方が入っているからだ。「一人当たりの水が百倍以上だから、雨も百倍以上降る」と連想すると、別の物差しを飛び越えてしまう。
ブラジルの平均降水量は1,761mmで、日本の1,668mmと比べれば一割も違わない。それでも総量の比は十三倍ほどある。こちらは似た深さの雨を持つ国でも、国全体の水の規模が大きく違う例になる。
インドの平均降水量は1,083mm、エジプトは18.1mm。六つの国の名前を同じ順番で追いながら、深さ、総量、一人当たりを読み替えると、それぞれの列が何を引き受けているかが見えてくる。単に一位を探すより、「雨は似ているのに、こちらは違う」という二つの国を見つけるほうが、地理の意外さに出会いやすい。
一人当たりの数字から、分母の大きさを確かめる
図の総量を立方メートルへ直し、一人当たり量で割ると、割り算に使われた人口の規模を逆算できる。ブラジルはおよそ二億一千万人、アイスランドはおよそ三十八万人となる。これは別の人口調査を引用した値ではなく、今回の二つの水指標を組み合わせた概算だ。
この逆算は、総量と一人当たり量がどう結びついているかを確かめる小さな実験になる。アイスランドの総量はブラジルより小さいが、それを割る人数も非常に少ない。だから一人当たりへ直すと、大きな値になる。
仮に水資源の長期平均を動かさず、人口だけが二倍になれば、一人当たりの値は半分になる。雨が急に半分にならなくても、一人当たりの棒は短くなりうる。反対に人口が減れば、同じ水資源の量から計算する一人当たり量は増える。
水の記録に人口の記録を重ねると、環境の変化と人口の変化を分ける入口ができる。一人当たりの値を時系列で見て下がっていても、そのグラフだけで降水量の減少を結論にはできない。分子と分母を一度ずつ開くことで、変化の中身を調べられる。
エジプトの小さな棒には、「国内」という条件が隠れている
エジプトの棒がとても短いことも、今回の図の特徴だ。ただし、この値からエジプトで使われる水の全量を想像すると、重要な流れを落としてしまう。今回選んだ指標は「国内で生まれる」水資源だからだ。
FAOの集計方法では、国内の水資源と、国境を越えて入ってくる水資源を区別する。川は国境線で止まらない。外国から流入する水を含めた問いに答えるなら、国内分だけでなく、外部からの流れを扱う欄も読む必要がある。
この区別を身近な帳簿にたとえるなら、自分の敷地に降った雨を数える帳簿と、外から流れてきた水も数える帳簿の違いに似ている。どちらも水についての記録だが、足している範囲が違う。国内分が小さいことと、国外からの流れが生活に重要であることは両立する。
国境を越える水の総量は、上流と下流の関係にもつながる。そのため、各国の総再生可能水資源を単純に足せば、同じ川の水を重ねて数える場合がある。世界を国別の箱に分けるとき、川のほうはその箱をまたいでいる。このずれを意識すると、水の地図には国の色分けとは別の線が流れていることが見えてくる。
川と地下水を足すときにも、重なりがある
国境だけが集計の分かれ道ではない。水は地上の川と地下を行き来するので、表面の水と地下水をそれぞれ数え、何も考えずに合計すれば、同じ水を重ねて数える可能性がある。
FAOの方法では、この重なりを考慮して国内再生可能水資源を整理している。統計の列にある「表流水」「地下水」という名前は、水が永久に分かれた別々の箱に入っていることを意味しない。地球の水はつながりを持って移動している。
雨の深さから体積へ、国内から国境を越える流れへ、地表から地下へ。ここまで辿ると、単純そうな「水が多い国」という質問が、どの流れをどこで数えるかという問いへ変わっていると気づく。
同時に、こうした区別があるからこそ、六つの国を同じ表に載せられる。家庭の蛇口から出る水と比べるには遠い単位に見えても、その数字の中には、水の移動を二重に数えないための工夫が詰まっているのだ。
二〇二二年の欄は、その年だけの雨を撮った写真ではない
今回取り出したのはデータベースの2022年欄だが、水資源量そのものは基本的に長期の年平均を表している。平均降水量の指標も、ある一年だけの降雨を記録したものではない。表に年が付いていることと、その値が単年の観測値であることは同じではない。
したがって、グラフから「二〇二二年はブラジルが特別に多雨だった」と読むことはできない。国の水資源の規模を比べるための基礎的な値として見る。特定の年の干ばつや豪雨を調べるなら、その期間の観測記録へ移る必要がある。
この点は一人当たり量を読むときにも効いてくる。長期平均の水資源量に、その年の人口を組み合わせた指標では、水の側の時間と人口の側の時間が完全に同じ意味ではない。何年の欄かに加えて、値が何年間の状態を代表しているかも確認したい。
長期平均には、短い年ごとの変動に左右されず国の大きな違いを見やすくする役割がある。一方、一年間の厳しい渇水や特定地域の不足をそのまま映すものではない。世界地図を広く眺めるときの物差しと、今日の川を眺めるときの物差しを、問いに合わせて持ち替えるわけだ。
水の多さを一つに決めないほうが、地図は面白い
FAOは、水資源として計上した流れが、すべて利用可能な量を意味するわけではないと説明している。全国の年平均が大きくても、必要な場所へ必要な時期に届けられるかは別の問題だ。今回の一人当たり量を、そのまま一人が水道で使える量や飲める量と考えることはできない。
それでも、この比較にははっきりした発見がある。雨の深さでは日本がカナダを上回る。国内水資源の総量ではカナダが日本を上回る。六か国の総量ではブラジルが先頭に立ち、一人当たりに直すとアイスランドが先頭に立つ。どの数字も、同じ水を違う問いから照らしている。
雨が多いか、国全体の水が多いか、一人分にすると多いか。普段は一つの「豊か」という言葉にまとめていたものを分けると、国の広さや人口、川のつながりが見えてくる。
次に世界地図を開いたら、雨の降り方だけでなく、その雨を受ける面積と暮らす人数にも目を向けてみよう。ブラジルとアイスランドが入れ替わる二つの棒グラフは、水の比較であると同時に、地球の大きさと人の分布を一緒に眺める小さな窓なのである。
辿った記録
データ取得・確認:2026年10月1日。比較は図に記した対象年・取得版による。本文を全面的に書き直し、図表と出典を更新しました。


