世界をまたぐ企業投資が2年ぶりに増加へ転じた。2025年の海外直接投資(FDI)は1.6兆ドルに達し、前年比6%増えた。
景気回復のように見えるが、国連貿易開発会議(UNCTAD)の2026年版報告書は慎重だ。増加分は少数の巨大案件、とりわけAI関連のデジタル基盤へ偏り、上位20カ国だけで世界の投資額の8割超を受け取ったからである。
投資額の回復と、工場・雇用・技術移転の回復は同じではありません。
1.6兆ドルへの回復は均等ではなかった
2025年の世界FDIは6%増えた。先進国への流入は11%増えた一方、途上国は2%増の9010億ドルだった。金額は大きいが、伸び率の差は明確である。
FDIとは、企業が海外企業の経営へ継続的に関与するための投資を指す。証券の短期売買とは異なり、新工場、物流網、データセンター、企業買収などが含まれる。ただし資金の通過地点となる国での金融取引も混ざるため、総額だけで実体経済への効果は測れない。
上位20カ国が8割超を受け取った
世界には190を超える国があるが、2025年のFDIの80%超は受入額上位20カ国へ集中した。残りの国々が分け合うのは2割未満になる。
投資家は市場規模、電力、通信網、政治的安定、資金調達、人材、取引先の集積を重視する。すでに基盤が整った場所には次の投資も集まりやすい。反対に、投資が必要な国ほど初期費用やリスクが高く見え、資金を呼び込みにくい。
資本は不足している場所へ自動的に流れるのではなく、回収しやすい場所へ流れます。そのためFDI増加が国際格差を自然に縮めるとは限りません。
この偏りは貿易依存度と供給網の強さを検証した記事ともつながる。輸出拠点として世界市場へ接続できる国には投資が集まりやすいが、外部環境が変われば影響も大きい。
AIが投資先の地図を書き換えた
2025年の増加を押し上げたのは、少数のメガプロジェクトだった。中でもAI向けデータセンター、半導体、電力・通信基盤などデジタルインフラの存在感が大きい。
戦略分野が世界のグリーンフィールド投資計画額に占める割合は、2020年の16%から2025年には44%へ上昇した。ここでいうグリーンフィールド投資は、既存企業の買収ではなく、新しい設備や事業拠点を一から建設する計画である。
44%はFDI全体に占める比率ではなく、発表されたグリーンフィールド投資計画額に占める戦略分野の割合です。
AIデータセンターの電力需要を見れば、投資先が大規模電源、送電網、水、通信回線を持つ地域へ偏る理由が分かる。AI投資はソフトウェアだけで完結せず、巨大な物理設備を必要とする。
金額が増えても開発効果が薄い場合がある
データセンターは建設時に大きな資金を動かす。一方、完成後に生み出す恒常的な雇用は、同額の製造業投資より少ないことがある。機器を輸入し、利益が国外へ戻れば、受入国に残る付加価値はさらに限定される。
逆に、現地企業が調達網へ参加し、技術者が育ち、周辺産業が生まれれば、投資額以上の波及効果を持つ。重要なのは投資の大きさではなく、国内に何が残る設計になっているかだ。
半導体供給網の記事で見たように、先端産業は設計、製造装置、材料、量産能力が別々の地域へ分かれている。FDIが一部の工程だけを持ち込んでも、産業全体の自立につながるとは限らない。
2026年の投資環境は楽観できない
UNCTADは2026年の見通しについて、貿易政策の不確実性、地政学的緊張、紛争、高い資金調達費用、経済分断を挙げる。2025年の6%増を、そのまま持続的な上昇局面と見るのは早い。
次に見るべき数字はFDI総額だけではありません。新規案件数、実行額、雇用、現地調達率、技術移転、電力負担を合わせて追う必要があります。
まとめ
・2025年の世界FDIは6%増の1.6兆ドルへ回復した
・先進国は11%増、途上国は2%増と伸びに差があった
・受入額上位20カ国が世界のFDIの80%超を集めた
・戦略分野はグリーンフィールド投資計画額の44%を占め、2020年の16%から急上昇した
投資は戻った。しかし世界へ広がったのではなく、AI時代に必要な条件を持つ国と分野へ細く集中したというのが2025年の実像である。
データソース:UNCTAD「Global investment rises 6% to $1.6 trillion」、UNCTAD「World Investment Report 2026」、UNCTAD「Launch of the World Investment Report 2026」
