風邪をひいたとき、抗菌薬を飲めば早く治る。そう考える人は少なくない。しかし抗菌薬はウイルスには効かず、必要のない使用は細菌が薬に耐える機会を増やす。
WHOが2025年に公表した世界報告では、2023年に検査で確認された一般的な細菌感染症の約6件に1件で抗菌薬が効かなかった。これは将来の仮説ではなく、すでに医療現場で観測された数字だ。
「6件に1件」は世界平均にすぎない
WHOのGlobal Antibiotic Resistance Surveillance Report 2025は、2023年に104カ国から報告された検査結果を分析している。対象は血流感染、尿路感染、胃腸感染、淋菌感染などだ。
世界平均では約6件に1件だった一方、東南アジア地域と東地中海地域では約3件に1件に達した。住む地域によって「同じ感染症に同じ薬が効く確率」が大きく違う。
監視体制の弱い国ほど検査できない症例も多い。報告値が低いことが、そのまま安全を意味するわけではない点にも注意が必要だ。
耐性は一部の例外ではなく、広がっている
WHOが2018年から2023年まで追跡できた病原体と抗菌薬の組み合わせのうち、40%以上で耐性率が上昇した。上昇している組み合わせでは、年平均5〜15%のペースで悪化している。
問題は「新薬がまだあるから大丈夫」では済まない。大腸菌や肺炎桿菌のような身近な細菌でも耐性が進み、敗血症や臓器不全につながる血流感染の治療を難しくしている。
細菌性の薬剤耐性は、2021年だけで世界の470万人を超える死亡に関連したと推計される。これはすべてが薬剤耐性による死亡という意味ではないが、感染症治療を難しくする規模の大きさを示す。
健康寿命を左右する条件は「長生きする国は何が違う?」、医療と所得の関係は「世界の所得格差を数字で見る」ともつながっている。
抗菌薬の使い方は目標から17ポイント離れている
WHOは、一般的な感染症の第一選択になりやすく耐性リスクが比較的低い「Access」群を、2030年までに抗菌薬使用の70%以上にする目標を掲げている。
しかし2022年の世界平均は53%だった。耐性化の懸念がより高い「Watch」群は約45%を占め、国の約3分の1では70%を超えていた。量を減らすだけでなく、どの抗菌薬を選ぶかも重要だ。
個人の注意だけでは止められない
薬剤耐性は「患者が薬を正しく飲むか」だけの問題ではない。迅速検査がなければ医師は原因菌を特定できず、広い種類の細菌に効く薬を選ばざるを得ない。病院の感染対策、水と衛生、畜産での使用、監視網も関係する。
WHOの監視システムには141の国・地域が参加しているが、2023年の耐性分析に必要なデータを報告したのは104カ国だった。測れない地域を残したままでは、耐性菌の拡大を早期に見つけられない。
世界的な感染リスクの見方については「世界の人の移動を数字で見る」も参考になる。人の移動そのものが原因なのではなく、国境を越えても検査と治療をつなげられる仕組みが必要だ。
まとめ
・2023年の一般的な細菌感染症は世界平均で約6件に1件が抗菌薬に耐性を示した
・東南アジアと東地中海では約3件に1件まで上昇している
・Access群の使用割合は53%で、2030年目標の70%に17ポイント届かない
薬剤耐性は、薬を使いすぎた人だけに起きる問題ではない。治療が必要になった誰にでも影響する。新薬開発と同じくらい、検査、処方、感染予防、監視の地道な改善が重要になる。
データソース:WHO「Global antibiotic resistance surveillance report 2025」、WHO「Antimicrobial resistance」、WHO GLASS
