猛暑のニュースが増えるたびに、「暑さで亡くなる人は今後かなり増えるのではないか」と感じる人は多いはずです。実際、気温上昇は健康被害のリスクを押し上げます。
ただし、世界データを丁寧に見ると、話はそれほど単純ではありません。今の多くの国ではまだ寒さ由来の死亡寄与のほうが大きく、一方で将来の暑さリスクは地域差を伴って急拡大していくからです。
2090年に暑さリスクの増加が大きい国はどこか
Our World in Data の将来推計データを見ると、2090年時点で暑さ関連死亡率の増加が特に大きいのは、ニジェール、ジブチ、ブルキナファソ、チャド、マリなどでした。上位国はいずれも高温地域に集中していて、気温上昇の影響がそのまま健康被害に跳ね返りやすい構造が見えます。
最も大きかったニジェールは 122.6、ジブチは 122.4、ブルキナファソは 116.6 でした。いずれも日本よりはるかに大きい伸びです。
現在はまだ「寒さ」の寄与が大きい国が多い
一方で、2015年時点の温度関連死亡の内訳を見ると、多くの国ではまだ暑さより寒さの寄与が大きい状態です。日本では寒さ由来が 9.81、暑さ由来が 0.31 でした。イタリアも寒さ由来 9.36 に対して、暑さ由来は 1.61 です。
アメリカ、イギリス、スペイン、ブラジルでも、程度の差はあっても寒さ由来のほうが上回っています。つまり「今すぐ世界中で暑さが最大の死亡要因になっている」というわけではありません。
ここで大事なのは、現在の構図と将来の変化は別だという点です。今は寒さの比重が大きくても、暑さリスクの増加スピードは別途見ておく必要があります。
日本の現在地は「今は小さいが、無視はできない」
日本は2090年時点の暑さ関連死亡率の変化で見ると 5.67 でした。ニジェールやパキスタンのような高リスク国と比べれば小さいものの、2050年の -1.26 から 2090年にはプラスへ転じています。
これは、日本では当面は寒さ由来の減少が暑さ由来の増加を相殺しやすい一方で、長期ではそのバランスが崩れていく可能性を示しています。高齢化が進む国であることも考えると、単純に「日本は暑さに強い国」とは言えません。世界で最も高齢化が進む国はどこかを見た記事と合わせると、暑さリスクが年齢構成にも左右されることが分かりやすくなります。
「今の暑さ死亡が小さい」ことと、「将来も心配しなくてよい」ことは同じではありません。日本はまさにそのズレを抱える国のひとつです。
なぜ地域差がこれほど大きいのか
暑さ関連死亡率の増加が大きい国は、もともと高温で、医療アクセスや住環境、冷房の普及、インフラの強さに制約を抱えやすい国が多くなります。つまり問題は気温だけではなく、社会の耐久力にも左右されます。
逆に、寒冷地域では温暖化によって寒さ由来の死亡が減る影響が大きく、短中期ではネットでマイナスに見える国もあります。フィンランドやノルウェー、カナダなどがその例です。
考察:暑さ被害は気温そのものより高齢化と適応力の差で増幅しやすい
今回のデータで面白いのは、現在と将来で見るべき景色が違うことです。現在は多くの国で寒さ由来の死亡寄与が大きいのに、将来の増加分だけを見ると、暑さリスクは高温地域を中心にかなり鋭く立ち上がります。
つまり「今どちらが大きいか」と「これからどちらが増えるか」は別問題です。猛暑のニュースだけで判断すると今を大きく見誤り、現在の寒さ寄与だけを見ると将来を甘く見積もりやすい。その両方を押さえる必要があります。
暑さ被害を考えるときは、「現在の温度関連死亡の内訳」と「将来の増加分」を分けて見ると整理しやすくなります。
まとめ
・2090年に暑さ関連死亡率の増加が大きいのはニジェール、ジブチ、ブルキナファソなど
・高温地域ほど将来の暑さリスク増加が大きい傾向がある
・現在は多くの国で、暑さより寒さ由来の死亡寄与のほうが大きい
・日本も現時点では寒さの寄与が大きいが、長期では暑さリスクの上昇が見える
・今の構図と将来の変化を分けて見ることが大切
暑さで亡くなる人は増えるのか、という問いへの答えは「地域によってはかなり増える。ただし、現在の世界全体像はそれだけでは説明できない」です。今と未来を分けて見ることで、このテーマはかなりクリアになります。
データソース: Our World in Data change in heat-related death rate, Our World in Data deaths attributable to non-optimal temperatures
