妊娠や出産で命を落とす女性は、2000年から2023年までに世界で約4割減った。それでも2023年には約26万人、1日700人以上が亡くなった。時間に直せば、ほぼ2分に1人である。
改善しているのに、目標には届かない。WHOなど国連機関の最新推計を読むと、その理由は世界平均よりも、所得と紛争による極端な格差に見えてくる。
まず「4割減った」は本当か
妊産婦死亡率は、出生10万件あたり何人の女性が妊娠・出産に関連して死亡したかを示す。世界平均は2000年の328人から2023年の197人へ下がった。減少率は約40%だ。
23年間の改善で、年間死亡数も44万3,000人から26万人へ減った。医療へのアクセス拡大が人命を救ったことは間違いない。
平均寿命の長期改善については「長生きする国は何が違う?」でも扱っている。妊産婦死亡の減少も、世界の健康改善を構成する重要な一部だ。
しかし改善速度は10分の1しかない
問題は、2016年以降に改善ペースが鈍ったことだ。2030年のSDG目標は、世界の妊産婦死亡率を出生10万件あたり70人未満にすること。2023年の197人から目標へ到達するには、毎年およそ15%ずつ下げる必要がある。
ところが現在の年間低下率は約1.5%にとどまる。必要な速度の約10分の1でしか進んでいない。改善の方向は正しくても、このままでは期限に間に合わない。
「死亡率が下がっている」と「目標に近づいている」は同じではありません。目標との差と改善速度を同時に見る必要があります。
低所得国では高所得国の35倍
2023年の妊産婦死亡率は、高所得国で出生10万件あたり10人だったのに対し、低所得国では346人だった。倍率にすると約35倍である。
さらに紛争地域では504人、脆弱な制度環境では368人、どちらにも当てはまらない地域では99人だった。紛争・脆弱国は世界の出生の25%を占めるにすぎないが、妊産婦死亡の61%が集中している。
出産そのものの危険より、必要な医療へ間に合うかどうかの差が大きい。妊婦健診、熟練した医療者、緊急手術、輸血、産後ケアへつながれないことが、避けられる死亡を生む。
出生率だけを見ても人口の未来は分からない
少子化が進む国では出生数を増やす議論が中心になりやすい。一方、世界では生まれる前後の安全を確保できない地域が残る。人口問題は「何人生まれるか」だけでなく、「母子が安全に生きられるか」を含む。
世界の出生率の低下は「世界の出生率はなぜ下がり続けているのか?」、男女格差との関係は「男女格差が小さい国は何が違う?」で整理している。
対策は出産時の医療だけでは足りない。家族計画、貧血やマラリアの予防、交通、教育、女性が自分の健康について意思決定できる環境までつながっている。
まとめ
・世界の妊産婦死亡率は2000年の328人から2023年の197人へ約40%低下した
・2023年も約26万人が死亡し、低所得国の死亡率は高所得国の約35倍だった
・2030年目標には年15%の改善が必要だが、現在のペースは約1.5%にとどまる
世界は出産を以前より安全にした。しかし改善の恩恵は均等ではない。残された死亡を減らすには、平均値をさらに少し下げるより、医療から最も遠い地域へ資源を届かせる必要がある。
データソース:WHO等「Trends in maternal mortality 2000 to 2023」、WHO「Maternal mortality」、WHO等共同発表
