「世界はどんどん危なくなっている」と感じる人は多い。ニュースを見るとそう思っても不思議ではない。だが犯罪全体を一言で「増えている」と言うのはかなり危うい。
国際比較で比較的そろっているのは homicide、つまり殺人だ。すべての犯罪を網羅はできない。だが治安の重い変化を見るには有力な指標だ。
まず「犯罪が増えている」とは何を指すのか
窃盗、詐欺、暴行、薬物、サイバー犯罪。犯罪には種類が多い。しかも国ごとに定義や通報率が違う。だから世界全体をきれいに比較するのは難しい。
データで現状を整理する
UNODCの Global Study on Homicide 2023 はかなり強い事実を示している。世界では平均すると年間約44万人が homicide で命を落としている。これは紛争死約9.4万人とテロ死約2.2万人を合わせた数より多い。
言い換えると、世界では homicide のほうが armed conflict と terrorism を合わせたより多くの命を奪っている。国連はこれを「1時間に52人が homicide で命を失っている」と表現している。
治安の現実は、戦争より「日常的な暴力」のほうが多くの命を奪っているという点にある。
地域差はかなり大きい
世界の homicide は一様ではない。ラテンアメリカとカリブ海、そしてサブサハラ・アフリカで特に高い。逆に東アジアや西欧は比較的低い水準にある。
さらに被害者の性別にも偏りがある。2021年に世界の homicide 被害者の81%は男性だった。若い男性ほどリスクが高い。
世界の治安は「一律に悪化」ではない。地域によってまるで別の現実がある。
なぜ地域差がここまで大きいのか
UNODCは organized crime の影響を特に重く見ている。ラテンアメリカとカリブ海では gang や criminal groups が homicide を押し上げる主要因になっている。背景には格差や都市の分断も重なりやすい。
一方で家庭内や親密な関係の殺人は別の構図を持つ。国連によれば女性や少女は家庭の中で殺されるリスクが相対的に高い。つまり「犯罪」と一言でまとめても現場の構造はかなり違う。
考察:治安悪化は「世界の空気」より局所的な構造で起きる
人は世界全体の不安を一つのストーリーで理解したがる。だが homicide のデータを見ると、実際には局所的な構造の差が大きい。国家の統治能力。組織犯罪。武器の流通。若年男性の失業。こうした要因が濃く効く。
つまり治安は「時代が悪くなった」より「どこで何が起きているか」で見たほうが正確だ。世界が同じ速度で危なくなっているわけではない。
「犯罪が増えた」と感じたときは、まず殺人データで地域差を見ると実態に近づきやすい。
未来予測
今後の homicide は、都市化、格差、武器流通、組織犯罪の再編で動く可能性が高い。テクノロジーの発達だけで治安が自然に改善するとは言えない。
世界の治安を読む鍵は「増えたか減ったか」より、どの地域でどの種類の暴力が強いかを分けて見ることだ。
まとめ
・世界では年間約44万人が homicide で死亡している
・これは紛争死とテロ死の合計を上回る
・1時間あたりにすると52人が homicide で命を落としている計算になる
・2021年の homicide 被害者の81%は男性だった
・地域差は大きく、ラテンアメリカとカリブ海、サブサハラ・アフリカで高い
世界の犯罪は一言では語れない。だが少なくとも homicide のデータは、私たちが思う以上に日常的な暴力が重いことを示している。
データソース:UNODC “Global Study on Homicide 2023”、UN SDG Report Goal 16
