スマートフォンで同じ検索画面を開いていても、裏側で使っているインターネットの「住所」の方式は同じとは限らない。従来のIPv4と、より大きな住所空間を持つIPv6が並行して動いているからだ。この切り替えは、端末を買い替えれば世界で一斉に終わる種類の更新ではない。回線を運営する会社、家庭のルーター、接続先のサービスまで、通信の途中にある仕組みが関わる。
Googleが公開する日次データを年ごとに集計すると、同社へIPv6でアクセスする利用者の割合は、2012年の平均0.68%から2025年の45.84%に上がった。一方、APNICの2026年9月29日〜10月28日の30日観測では、IPv6を利用できる割合はフランス85.95%、インド76.16%、日本62.63%、韓国29.68%だった。世界全体の長い前進と、隣り合う国の大きな差が、同じインターネットの中に同居している。
この記事では、Googleの2012〜2025年の長期推移と、APNICによる同一期間の8か国比較を分けて読む。答えたいのは、ネットの利用者が増えたかではなく、すでにつながっている利用者の通信が、新しい住所の仕組みへどこまで移ったかだ。資料の検索・確認日は2026年10月30日。日々更新される数値は、取得時点の対象期間を固定して扱う。
住所が約43億通りあっても、足りなくなる
IPアドレスは、ネットワーク上でデータを届ける相手を識別するための番号だ。IPv4では住所の長さが32ビットなので、理論上の組み合わせは2の32乗、4,294,967,296通りとなる。約43億というと途方もなく大きいが、これは世界中の通信で共有する有限の空間であり、すべてを一般の利用者に割り当てられるわけでもない。IPv6は住所を128ビットへ拡張した。両方式の違いは、まずこの番号空間の大きさにある。IPv6の標準仕様RFC 8200の第1節は、32ビットから128ビットへの拡張を主要な変更として挙げている。
在庫が尽きたという歴史も、正確には「どの在庫か」を分ける必要がある。2011年2月3日、IANAから5つの地域インターネットレジストリへ、残されていた最後の5つの大きなIPv4アドレスのブロックが配分された。地域レジストリの連合組織NROの当日発表によれば、ここで枯渇したのは中央の未割り当てプールだ。既に利用者へ配られていた住所が、その日に使えなくなったという意味ではない。
この違いを押さえると、「ずいぶん前に足りなくなったはずなのに、今も古い方式でつながる」という疑問が解ける。中央の新規在庫がなくなることと、既存の通信が止まることは別なのだ。しかもIPv4には、複数の端末が外向きの住所を共有する仕組みがある。RFC 3022が説明するアドレス・ポート変換では、端末ごとの通信をポート番号と組み合わせて対応づけ、ひとつの外部アドレスを使える。家庭の中に複数の端末があっても、一台ずつ別の公開IPv4アドレスを持つ必要がないのは、この仕組みで理解できる。
ただし、番号を共有して使い続けることと、番号空間の制約をなくすことは同じではない。共有には通信の対応関係を管理する処理が伴う。IPv6への移行は、古い住所が突然失効するので急いで全員が引っ越す、という物語ではなく、既存の方式を動かしながら、新たな接続に必要な仕組みを順次整える物語になる。この「使い続けられる」という条件が、長い移行期間を理解する出発点になる。
1%未満だった通信が、14年で半分近くへ
長期推移にはGoogleのIPv6統計を使った。測っているのは、GoogleへIPv6でアクセスする利用者の割合である。世界の全人口のうちIPv6を知っている人の割合でも、インターネット全体のデータ量のうちIPv6で運ばれる割合でもない。ここを取り違えると、同じ「普及率」という言葉でも意味が変わってしまう。
図1は、Googleが配信する元データの「total IPv6 %」という日次値を、暦年ごとに単純平均したものだ。2012年から2025年までは、うるう年を含め、各年の全暦日の値がそろっていた。欠測の補間はしていない。各日を同じ重みで扱っており、日ごとの利用者数で加重した公式の年間比率ではない。数値は図では小数第2位までに丸めた。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | IPv6アクセス割合 |
|---|---|
| 2012 | 0.68 |
| 2013 | 1.56 |
| 2014 | 3.6 |
| 2015 | 6.7 |
| 2016 | 10.98 |
| 2017 | 16.81 |
| 2018 | 21.19 |
| 2019 | 25.49 |
| 2020 | 29.94 |
| 2021 | 33.34 |
| 2022 | 37.61 |
| 2023 | 41.02 |
| 2024 | 43.43 |
| 2025 | 45.84 |
2012年の0.68%から、2014年は3.60%、2016年は10.98%へ進む。最初の4年間だけを見ると、まだ少数派の通信方式だったことがわかる。そこから2018年に21.19%、2020年に29.94%、2022年に37.61%となり、2024年は43.43%、2025年は45.84%に達した。出発点と終点の差は約45.16ポイントである。これは割合どうしの引き算であり、45.16%増という意味ではない。
線は大きく上向いているが、同じ勢いで加速し続けているわけではない。丸める前の値で計算すると、2016年から2020年の上昇は約18.96ポイント、2020年から2025年の上昇は約15.90ポイントだった。後者は1年長いのに、上昇幅は小さい。ただし、この線だけから設備投資の失速や需要の不足まで断定することはできない。ここで確実に読み取れるのは、観測された利用割合の増え方が、期間によって違うということだ。
2012年は、業界がIPv6を恒久的に有効にするために歩調を合わせた年でもある。Internet SocietyのWorld IPv6 Launchの当日記録は、6月6日に登録された3,000を超えるウェブサイトと、60を超えるネットワーク事業者の参加を伝えている。これは全世界の切り替え完了日ではなく、参加者が利用可能な状態を持続させる節目だった。図の同年平均が1%未満なのは、イベントの開催と日常の利用割合が別の尺度であることをよく示している。
取得したGoogleデータは2026年10月28日まであったが、図には2026年を加えなかった。1月から10月途中までの平均を、過去の1年間の平均と同じ条件で並べないためだ。日次値にも変動があり、直近では10月24日が51.41%、10月28日が46.57%だった。ある日に半数を超えたことと、年間を通じて半数以上だったことは異なる。最新の大きな数値だけを拾うより、同じ長さの期間で比べるほうが、変化を見失いにくい。
途中の年をもう少し細かく追うと、2017年は16.81%、2019年は25.49%、2021年は33.34%、2023年は41.02%だった。年を飛ばした数点だけでも上昇は見えるが、すべての年を並べると、短い期間の変化を長期の傾向に置き換える危うさもわかる。たとえば2024年から2025年の増加は約2.41ポイントで、2016年から2017年の約5.83ポイントより小さい。2つの区間を比べれば伸び幅の違いは示せるが、そこから将来の完了年を一直線に延長して求めることはしない。
そもそも、到達先がGoogleであることも観測の条件になる。ある事業者の利用者がGoogleにIPv6でつながることを確認できても、その人が訪れるすべてのサービスの対応まで確認したことにはならない。年平均が半分近くという結果は、特定の大きな観測窓から見た通信の変化だ。その窓の条件を一定に保って長期間比べることで、日々の画面には現れない更新の積み重ねを捉えられる。
日本と米国は近いが、日本と韓国は離れる
国別の比較には、アジア太平洋地域のIPアドレス資源を管理するAPNICの研究部門、APNIC Labsによる観測を使う。国別統計の取得時点で表示されていた対象期間は、2026年9月29日〜10月28日の30日間だった。図2には、比較対象として選んだフランス、インド、ドイツ、米国、日本、中国、韓国、インドネシアを掲載した。世界の上位8か国を選んだランキングではない。
この統計の「IPv6 Capable」は、測定対象の端末環境からIPv6を使って指定の通信ができることを指す。APNICの測定方法の解説では、IPv4だけ、IPv6だけ、両方を持つ宛先への通信を使って判定している。国籍や購入した機器の仕様ではなく、そのときに端末から利用できた通信経路の性質を測っていると考えるとわかりやすい。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | IPv6対応率 |
|---|---|
| フランス | 85.95 |
| インド | 76.16 |
| ドイツ | 72.84 |
| 米国 | 63.27 |
| 日本 | 62.63 |
| 中国 | 49.13 |
| 韓国 | 29.68 |
| インドネシア | 29.65 |
8か国の値は、フランス85.95%、インド76.16%、ドイツ72.84%、米国63.27%、日本62.63%、中国49.13%、韓国29.68%、インドネシア29.65%となった。フランスとインドネシアの差は56.30ポイント。日本と米国の差は0.64ポイントしかない一方、日本と韓国の差は32.95ポイントある。地理的に近いかどうかと、同じ程度まで移行しているかどうかは一致しない。
また、インドが日本を13.53ポイント上回っている点も目を引く。この図は国の所得や通信速度を測ったものではないから、豊かさの順位に沿って並ぶはずだと考える必要はない。新しい住所の仕組みを、事業者がどの範囲の利用者に提供しているかが問題になる。同じ割合でも利用者の母数は違うため、国ごとの対応人数の順位に読み替えることもできない。インドの76.16%と日本の62.63%から、人数の差を直接計算することはしなかった。
韓国とインドネシアの差は0.03ポイントと小さい。しかし、表の値が近いからといって、両国の通信網の構成や整備の歴史まで同じとはいえない。ひとつの全国値には、移行が進んだ事業者と、これから対応する事業者が混ざりうる。全国の棒グラフは比較の入口にはなるが、個々の契約回線について、そのまま利用できる確率を保証する数字ではない。
「使える」と「実際に選ばれる」は少し違う
APNICは、もうひとつ「IPv6 Preferred」という値も公表している。これはIPv4とIPv6の両方を使える宛先に対し、実際にIPv6が選ばれた場合の観測だ。取得した同じ30日間の表で、日本はCapableが62.63%、Preferredが59.64%だった。差は2.99ポイント。米国では63.27%と60.28%で、こちらも差は2.99ポイントになる。図2は前者だけを使い、2つを足し合わせていない。
この違いは、対応機器を持つこと、経路が通ること、複数の方式からひとつを選ぶことが、別々の段階だと教えてくれる。IPv6でも到達できる環境が、どんな場面でも必ずIPv6を使うとは限らない。Googleの「同社へIPv6でアクセスした利用者」と、APNICの「IPv6を使えると観測された環境」は、どちらも実測に基づくが質問が違う。図1の45.84%と図2の日本62.63%を引き算して、日本が世界より何ポイント進んでいる、と表現しなかったのはこのためだ。対象期間もそろっていない。
測定の入口も違う。Googleは同社を利用する人の通信を見ている。APNICは広告に埋め込んだ測定を通じて端末へ試験用の通信をさせ、地域などに分類する。APNICが公表した2025年の説明では、地域集計にインターネット利用者データを使った重みづけを行っている。無作為に選んだ住民全員への調査ではないし、観測される端末や利用の場面にも条件がある。小数第2位まで表示されていても、それだけで社会全体を同じ精度で言い当てられるわけではない。
元の国別表には測定サンプル数もある。日本は92,161,110件、韓国は16,644,034件だった。これらを日本の約9,216万人、韓国の約1,664万人が調査に回答した、と読むことはできない。広告を通じた測定には、同じ人や端末が繰り返し含まれる可能性があるからだ。ネットの実測では、人数、端末数、試験の件数がそれぞれ違う単位になる。大きなサンプルが集まっていることは観測の厚みを示すが、人口調査と同じ種類の全体像を自動的に保証するものではない。
実際、APNICの測定方法の歴史には、観測する道具を変えると見える端末の構成も変わる事例がある。2015年の解説は、広告内の測定をFlash中心からHTML5にも広げると、従来捉えにくかった携帯端末を観測しやすくなったと報告している。ここでの教訓は、現在の数値が疑わしいということではなく、実測の数字にも観測範囲の設計があるという点だ。同じ測定系、同じ期間を使った図2で国を比較し、別の測定系の長期線と直接つながなかった理由でもある。
差を生むのは、番号の規格だけでなく設備の世代
国による差を考える手がかりは、APNICの2025年4月の地域分析にある。同資料は、固定ブロードバンドの設備投資には長い更新周期があり、IPv6に対応する前の設備を使い続けることが移行を遅らせうると説明し、その例として韓国などを挙げている。一方、利用者宅の機器を現地で丸ごと交換せずに更新できる仕組みは、導入を速める経路になるという。規格が存在していても、既に配られた設備をどう更新するかで、到達する利用者の範囲は変わる。
この説明が有用なのは、全国の数値を「国民が新技術を好きか」という性格診断にしないで済むことだ。利用者が新しいスマートフォンを買っても、回線事業者の経路や家庭のルーターの設定が対応していなければ、端末の能力だけでは通信は成立しない。反対に、事業者側が多くの契約者へ提供する仕組みを更新すれば、利用者一人ひとりが住所の規格を意識して選ばなくても、観測される対応割合は変わりうる。
ただし、設備更新の話を、図2の国別差のすべてを説明する計算式にすることはできない。APNICの解説は構造上の要因を示したもので、韓国と日本の32.95ポイントの差を、設備の古さが何ポイント、事業者の構成が何ポイントと分解した研究ではない。今回の記事も、そのような寄与度を推測しない。確かめられる差と、その差が生まれうる仕組みを区別することが、数字の面白さを損なわずに読む方法になる。
日本では「速くなる」という説明の中にも現れる
日本でIPv6という言葉を見かける身近な場所は、光回線の契約案内だ。ここには、通信の住所の規格とは別に、回線の接続方式の話が重なっている。JPNICの2018年の技術解説によると、NTT東西のフレッツ網では、IPv6の接続についてPPPoE方式が2011年6月、IPoE方式が同年7月に提供を始めた。IPv6の導入当初から、接続の仕方はひとつではなかった。
同資料は、従来の接続点となる網終端装置の混雑と、IPv4の通信をIPv6の網経由でも運べるようにする仕組みを説明している。ここで重要なのは、IPv6という住所の長さが変わることと、混雑する設備をどの経路で通るかを変えることを、分けて考える点だ。「IPv6なら速い」という短い言い方には、複数の変更が束ねられている。国別の対応率を見ても、それだけで自宅の夜の通信速度が何倍になるかは計算できない。
IPv4の通信をIPv6で運ぶ方式があるという点は、移行の長さを理解するうえでも面白い。新しい仕組みの網が整っても、接続先に合わせて古い方式の通信を運ぶことは残る。利用者にはひとつの契約、ひとつの画面に見えていても、内部では複数の仕組みをつなぎ合わせている。だから、機器の箱にIPv6対応と書かれていること、APNICの試験が通ること、特定のサイトへの通信でIPv6が選ばれることは、順に確認する対象が違う。
終わりの日がひとつではない、インターネットの更新
古い方式と新しい方式を並行して支える考え方は、後から場当たり的に生まれたものではない。移行の基本を定めたRFC 4213は、IPv4とIPv6の両方を実装するデュアルスタックや、別の網の中を通すトンネルを扱っている。新しい住所が使える機器だけで世界を組み直すのでなく、相手や経路の条件に合わせて通信を続ける設計が、長期の共存を可能にしている。
今回の2枚の図から具体的にわかるのは、その共存が止まったままではないことだ。Googleへのアクセスでは、2012年に1%未満だった年平均が、2025年には半分近くまで上がった。APNICの同じ30日間の国別観測では、日本と米国が6割台で近い一方、インドは7割台、フランスは8割台、韓国とインドネシアは3割弱に分かれた。世界をひとつの進捗率で表すと、こうした配置の違いが消えてしまう。
読者が回線の広告でIPv6という言葉に出会ったとき、この記録は三つの疑問を整理する助けになる。どの住所の規格を使うのか、どの設備と接続方式を通るのか、実際の宛先への通信で何が選ばれたのか。今回の統計が直接数えているのは主に最後の二つに接する観測であり、契約の満足度や速度そのものではない。インターネットの更新は、発表された新規格の数よりも、毎日の通信で使える経路がどこまで増えたかに刻まれている。
一次資料:Google:IPv6 Statistics(測定対象の定義)、Google:IPv6 adoption data(日次・total IPv6 %)、APNIC Labs:IPv6 Measurement Maps(2026年9月29日〜10月28日)、APNIC Labs:Changes to the Way We Measure IPv6(2015年7月14日)、APNIC:IPv6 capability reaches 50% in the Asia Pacific region(2025年4月23日)、RFC 8200:Internet Protocol, Version 6 Specification(第1節)、RFC 3022:Traditional IP Network Address Translator(概要・第1節)、RFC 4213:Basic Transition Mechanisms for IPv6 Hosts and Routers、NRO:Free Pool of IPv4 Address Space Depleted(2011年2月3日)、Internet Society:And So Begins World IPv6 Launch!(2012年6月6日)、JPNIC:ニュースレターNo.70 IPv6におけるPPPoE方式とIPoE方式とは(2018年11月)