発電所で百つくったら、百がそのまま届くのか
コンセントに差せば電気が使える。その手前には、発電所、送電線、変電所、配電網がある。電気をつくる量に注目する機会は多いが、届ける途中で生じる損失にも、国ごとの違いが記録されている。
世界銀行が収録するIEA由来の系列では、2024年の送配電損失は発電量に対して日本が約4.9%、ブラジルが約15.0%、ケニアが約25.8%だった。同じ発電量百の物差しに置くと、途中の損失として計上される大きさに差がある。
ただし、この数字はすべてが電線で熱になった量という意味ではない。定義には盗電なども含まれる。設備の中で物理的に失われる部分と、供給や計量の帳簿に関わる部分を含んだ指標として読む。
今回は八か国の比較と、四か国の二十四年間の変化を辿る。新しい発電所が何基できたかという話から少し離れて、電気が届く道のりを記録の側から見てみよう。
日本の約五パーセントと、ケニアの約二十六パーセント
最初の図では、2024年のケニアが約25.8%、ブラジルが15.0%、英国が9.9%。米国は5.3%、ドイツは5.1%、日本は4.9%、韓国は3.3%、アイスランドは2.9%となる。
日本と米国、ドイツは、今回の指標では比較的近い値だ。一方、ケニアと日本の差は約20.8ポイントある。比率を同じ物差しで眺めると、発電した量を届けるまでの記録が、国ごとに同じ形ではないことが分かる。
この八か国は比較のために選んだ国で、世界全体の損失率の上位や下位を抽出したものではない。また棒の高さだけから、特定の国の電線の品質や盗電の割合を単独で決めることはできない。指標がいくつかの要素をまとめているからだ。
家庭の電気代の何割が損失の料金かを示す数字でもない。発電量に対する電力量の比率と、家庭が払う料金の内訳は別の帳簿になる。まずは国全体の送配電損失を、量の比率として比べる図だと押さえたい。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | 値 |
|---|---|
| ケニア | 25.8 |
| ブラジル | 15.0 |
| 英国 | 9.9 |
| 米国 | 5.3 |
| ドイツ | 5.1 |
| 日本 | 4.9 |
| 韓国 | 3.3 |
| アイスランド | 2.9 |
時代が進めば、どの線も下がるわけではない
二つ目の図は、日本、ブラジル、ケニア、英国を2000年から追ったものだ。2000年と2024年を比べると、ブラジルは約17.7%から15.0%へ下がる。一方、ケニアは21.6%から25.8%、英国は8.3%から9.9%、日本は4.4%から4.9%へ動く。
技術が進歩するなら、時間とともにどの国でも一直線に損失率が下がるのでは、と想像していたら、この図は意外に見えるかもしれない。現実の記録は、各国で異なる線を描いている。
しかも、始点と終点だけでは途中の形が分からない。ケニアは2010年に約14.9%まで下がっており、そこから後は上がっている。日本も2017年には約3.8%で、2000年より低い時期がある。
国の一本の線には、設備だけでなく、電気をどこからどこへ届けるか、国全体の発電量がどれほどか、計量や集計がどう行われるかも関わる。図からまず確かめられるのは変化の形であり、原因の内訳を一つに決めるのは、その後の調査になる。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | 日本 | ブラジル | ケニア | 英国 |
|---|---|---|---|---|
| 2,000 | 4.4 | 17.7 | 21.6 | 8.3 |
| 2,001 | 4.3 | 17.2 | 21.0 | 8.3 |
| 2,002 | 4.6 | 16.7 | 22.5 | 8.0 |
| 2,003 | 4.7 | 16.3 | 18.9 | 8.1 |
| 2,004 | 4.5 | 16.7 | 18.0 | 8.4 |
| 2,005 | 4.3 | 16.6 | 17.9 | 7.0 |
| 2,006 | 4.3 | 16.8 | 18.1 | 6.9 |
| 2,007 | 4.3 | 16.1 | 17.1 | 7.0 |
| 2,008 | 4.4 | 16.6 | 16.0 | 7.2 |
| 2,009 | 4.4 | 17.2 | 15.7 | 7.5 |
| 2,010 | 4.0 | 16.6 | 14.9 | 7.0 |
| 2,011 | 4.2 | 16.5 | 15.3 | 7.6 |
| 2,012 | 3.9 | 17.1 | 17.6 | 7.8 |
| 2,013 | 4.3 | 16.6 | 17.1 | 7.4 |
| 2,014 | 4.0 | 15.4 | 18.4 | 8.1 |
| 2,015 | 3.8 | 15.5 | 16.9 | 8.5 |
| 2,016 | 4.3 | 16.8 | 19.2 | 7.8 |
| 2,017 | 3.8 | 16.4 | 18.7 | 8.0 |
| 2,018 | 4.2 | 16.1 | 21.6 | 8.0 |
| 2,019 | 4.2 | 16.7 | 23.8 | 8.2 |
| 2,020 | 4.5 | 16.8 | 23.9 | 8.8 |
| 2,021 | 4.7 | 16.5 | 22.9 | 8.8 |
| 2,022 | 4.1 | 15.4 | 22.8 | 8.6 |
| 2,023 | 4.9 | 15.1 | 24.2 | 9.6 |
| 2,024 | 4.9 | 15.0 | 25.8 | 9.9 |
送電線の途中で、電圧を替える理由
米国EIAの解説は、発電所から利用者までの経路を、長距離を運ぶ送電と、その先で家庭や事業所へ届ける配電に分けている。大きな鉄塔に掛かる高い電圧の線と、身近な配電の設備は、同じ仕事を同じ条件で行っているわけではない。
長距離の送電には高い電圧を使い、変電所の変圧器で、経路の段階に応じて電圧を上げたり下げたりする。EIAは高い電圧が長距離の送電を効率的にすると説明している。電圧を変える設備は、電気を運ぶ道の大切な接点なのだ。
発電所と家の間に一本の延長コードだけがある、と考えるより、途中で条件を変えながらつながる網を想像すると分かりやすい。送り出す側と受け取る側の用途が違うため、同じ状態のまま端から端まで運ぶわけではない。
今回の統計は、その経路の損失を国全体でまとめたものだ。一つの変圧器を測った実験値でも、一本の電線の性能表でもない。身近な設備の働きを知ったうえで国の棒を見ると、小さな部品から広い網までが一つの割合へ集まっていることが見えてくる。
損失の五分の一を減らすことと、届く量を二割増やすこと
比率の感覚を、仮の数字で確かめてみよう。百つくった電気に対して損失が五なら、ここで扱う損失だけを差し引いた残りは九十五となる。損失を五から四へ減らすと、残りは九十六になる。
損失の量は五のうち一が減るので二十パーセントの減少だ。しかし残りの量は九十五から九十六へ増えただけで、増加率は約一パーセントである。「損失を二割削減」と「届けられる量を二割増加」は、同じ意味ではない。
この例は国の実際の電力収支を再現したものではなく、損失だけを置いた単純な計算だ。国の収支全体では輸出入や発電所の自家使用なども区別する必要があり、発電量からこの割合だけを引けば家庭への供給量がすべて分かるわけではない。
それでも、何に対する二十パーセントなのかを見分ける練習になる。割合の指標を読むときは、削減する部分そのものと、全体に対する変化を分ける。小さな改善の数字が、何をどれほど動かすかを具体的に考えられるようになる。
ブラジルは下がったが、途中には戻りもある
ブラジルの損失率は2000年が約17.7%、2010年が16.6%、2015年が15.5%、2020年が16.8%、2024年が15.0%だった。長い期間の両端では低下しているが、途中で再び高くなる時期もある。
2000年から2024年の低下幅は約2.7ポイント。一方、2015年から2020年は約1.3ポイント上がり、その後2024年へは約1.8ポイント下がっている。同じ国についての「損失率が下がった」という説明でも、どの期間を指すかが重要になる。
また、損失率が下がることと、損失した電力量の実数が下がることは同じではない。分母の発電量が増えれば、比率が小さくなっても量は増えることがある。この点は、発電設備が広がる国のログを読むときにも効いてくる。
図に示した範囲の2024年の値は低い位置にあるが、その一本だけで設備更新の特定の施策の効果まで計算することはしない。変化の時期を見つけ、必要なら同じ年の発電量や送配電の資料へ進むための記録である。
ケニアの線は、二〇一〇年を境に違う顔を見せる
ケニアは2000年の約21.6%から、2005年17.9%、2010年14.9%へ下がる。その後は2015年16.9%、2020年23.9%、2024年25.8%と上がっている。
2000年と2024年だけなら約4.1ポイントの上昇だが、2010年から2024年では約10.8ポイントの上昇になる。途中の低い地点へ戻ると、変化の大きさが違って見える。
この線と、電力へアクセスできる人口の割合を追う線は別のものだ。電気を利用できる人が増えることと、発電量に対する送配電損失率が下がることは、同じ指標ではない。新たな利用者へ届ける網が広がる一方で、その網の損失の割合がどう動くかは別に確かめる必要がある。
世界の電化を一つの成績表にまとめるより、使える人の広がりと、届ける経路の損失を並べて読むほうが具体的になる。発電量、アクセス率、損失率は、同じ電気の話でありながら、それぞれ違う段階の履歴を残している。
日本と英国の、小さく見える動きも辿ってみる
日本は2000年の約4.4%から、2010年は4.0%、2015年は3.8%、2020年は4.6%、2024年は4.9%となる。大きな値の国と同じ軸で描くと小さな動きに見えるが、途中の低い時期と現在地には違いがある。
英国は2000年が約8.3%、2005年7.0%、2010年7.0%、2015年8.5%、2020年8.8%、2024年9.9%。こちらも、最初から最後まで同じ速さで動いた線ではない。
二つの国を比べると、2024年の英国は日本の約二倍の比率になる。ただし国全体で失った電力量が二倍という意味ではない。各国の発電量を分母にした割合を比べているため、絶対量を比べるには分母を戻す必要がある。
低い値の国でも、数字が永久に固定されているわけではない。大きな国際差を見る一枚目の図と、同じ国の小さな変化を追う二枚目の図を行き来すると、国ごとの現在地と履歴の両方を眺められる。
比率が改善しても、損失の量が増える仮の例
発電量が百、損失率が十パーセントなら、損失の量は十だ。翌年に発電量が二百へ増え、損失率が八パーセントへ下がったとすると、損失の量は十六になる。割合は改善しているのに、量は増えている。
逆に発電量が大きく減る年には、損失率が上がっても損失の量は小さくなる場合がある。分子と分母のどちらがどれくらい動くかによって、比率と量の変化は違う向きにもなる。
この仮の計算は、国の変化を一つのパーセントだけで良し悪しへ言い換える前に、何を比べているかを確かめる助けになる。経路の効率を比べたいのか、失われた電力量の規模を知りたいのかで、必要な表が変わるのだ。
同じ理由で、大きな国だから棒が必ず高くなるわけでもない。発電量が大きくても損失率は低い場合があり、発電量が小さくても比率は高い場合がある。国の大きさと、発電量に対する損失の比率を分けて見ることで、比較の焦点がはっきりする。
損失という名前でも、分母が違う資料がある
米国EIAにも、送配電でどれほど電気が失われるかを説明する資料がある。そこでは送配電された電気をもとに比率を考え、電力網に載らない直接利用の電気を計算から区別する方法が示されている。
一方、今回の世界銀行の図では、指標名のとおり発電量に対する割合を使っている。同じ「送配電損失率」という日本語で紹介できる資料でも、分母や集計範囲を確認しないまま数値を混ぜると、比較の条件が変わってしまう。
たとえば米国だけ国内機関の別の計算値へ入れ替え、ほかの国は世界銀行の系列を使うと、国際差の中に定義の差が入り込む可能性がある。そこで図の八か国は同じ系列へ揃えた。EIAの資料は送配電の仕組みと計算の違いを理解するために参照している。
数字が少し違う資料を見つけたとき、すぐにどちらが間違いかと考える必要はない。いつの値か、何を分子にし、何を分母にしたかへ戻ると、同じ電力網を別の窓から見ていたと分かることがある。
発電所の中の損失と、届く途中の損失も分ける
電気をつくる前の燃料に含まれるエネルギーが、すべて電気へ変わるわけではない。しかし今回の棒は、燃料から電気へ変える段階の効率を示したものではない。発電した電気を基準に、送配電に関わる損失を見ている。
この違いを混ぜると、発電所の方式の話と電力網の話が一つになってしまう。発電の効率がどうかを知る資料と、送配電でどう失われるかを知る資料は、同じエネルギーの流れの別の部分を扱う。
また、家庭の家電がどれくらい効率よく動くかも、さらに先の段階の話だ。発電所、送配電、利用者の機器という順番に区切れば、同じ「ロス」という言葉がどの場所を指すかを整理できる。
コンセントの向こうには、いくつもの段階がある。どこからどこまでを測った数字なのかを意識すると、新しい発電設備のニュースと送電線の整備のニュースが、電気を使う暮らしの中でどうつながるかも見えてくる。
つくった量の記録から、届ける道の記録へ
今回の比較では、送配電損失の割合に大きな国際差があり、同じ国でも長い時間の中で上下することが分かった。ブラジルは長期の両端では下がり、ケニアは途中の谷を経て上がる。日本と英国にも、それぞれの経路がある。
この一系列だけで、原因を設備、距離、計量などに分けて順位をつけることはできない。それでも、発電量を増やすことと、つくった電気を届けることが別の仕事だと、数字で確かめられる。
電気の話題を追うとき、新しい発電所の出力だけでなく、途中の網にはどんな記録があるのかを考えてみる。損失の比率を開き、気になる年の発電量や設備の資料へ戻れば、目に見えない経路を少しずつ辿れる。
日常では一瞬で明かりがつく。その一瞬の手前に、国ごとに違う長い道がある。世界の送配電損失のグラフは、コンセントからその道を逆に辿るための地図になる。
辿った記録
データ取得・確認:2026年10月1日。比較は図に記した対象年・取得版による。本文を全面的に書き直し、図表と出典を更新しました。
