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溺れる事故は減っている? 世界の38%減と米国の幼児の増加を読み解く

世界の溺水死亡率は2000〜2021年に38%低下したが、地域別では欧州68%減、アフリカ3%減と開く。米国では2019年以降に幼児の死亡率が上昇した。年齢ごとに違う変化の時期と、浴槽・プール・自然の水域という事故の場所から、平均では見えない水難の姿を読む。

溺れる事故は、世界では減っている。しかし、その一文だけで水辺が安全になったとは言い切れない。世界保健機関(WHO)の推計では、人口当たりの溺水死亡率は2000年から2021年に38%下がった。一方、米国では2019年を基準にすると、2020年、2021年、2022年のいずれも死亡率が高かった。米国の1〜4歳では、2022年の死亡率が2019年を28.3%上回った。

この二つは矛盾しない。長い期間の世界平均と、一つの国の短期間では、見ている範囲が違うからだ。さらに年齢を分けると、米国でも若者の上昇が目立つ年と、幼児や高齢者の上昇が目立つ年は一致しない。「海水浴で起きる子どもの事故」という一枚の絵では捉えにくい変化を、地域、年齢、事故の場所の順に辿ってみよう。

世界の死亡者数は2割減、死亡率は4割近く減

WHOの『世界溺水予防状況報告書2024』は、同じ推計系列で世界の死亡者数を2000年の約37万5000人、2021年の約30万人としている。減少幅は約7万5000人で、割合にすると20%だ。ところが、死亡率の減少は38%と大きい。死亡者数は現実に失われた命の規模を、死亡率は人口を分母にした頻度を表す。人口が変わる世界では、二つの減り方がそろうとは限らない。[資料1・17頁]

死亡者数が2割減ったという記録と、人口当たりでは4割近く減ったという記録は、同じ出来事を別の角度から見ている。前者は救急や行政が向き合う負担の量を知るのに役立つ。後者は人口規模の異なる時点を比較する入口になる。ただし、人口当たりに直しただけで、年齢構成や水辺で過ごす時間まで同じになるわけではない。死亡率を「泳ぎに行ったときの危険度」と読み替えることもできない。

この約30万人には統計上の境界がある。WHOが採用した死因分類は、国際疾病分類第10版のW65〜W74、すなわち不慮の溺死・溺水だ。浴槽、プール、自然の水域などを含む一方、水上交通事故、洪水、自殺、他殺、意図不明の溺水は別の分類なので含めない。報告書は、範囲外の分類まで十分な品質で提供した国が26か国にとどまり、世界へ広げた推計が困難だったと説明している。海で亡くなった人をすべて合計した数字ではない。[資料1・8頁]

同じ21年間でも、欧州68%減とアフリカ3%減

世界平均を地域別に開くと、改善の速さは大きく違う。2000年から2021年の死亡率の低下は、WHO欧州地域で68%、東南アジア地域で48%、米州地域と西太平洋地域ではともに38%だった。東地中海地域は21%、アフリカ地域は3%にとどまる。図1は死亡率そのものの高さではなく、この期間にどれだけ下がったかを比べたものだ。[資料1・17〜18頁]

溺水死亡率の低下幅は地域で違う。死亡率の低下率(%、2000年比)。数値は直後の表で確認できます。
図1 溺水死亡率の低下幅は地域で違う。対象:2000年から2021年。単位:死亡率の低下率(%、2000年比)。WHOの6地域、全年齢・男女計。死因W65〜W74の推計。棒は死亡率の高さではなく期間中の低下率で、正の値が減少を表す。WHO地域は大陸区分とは異なる。公表された6地域の値を使用し、欠測や補間はない。 出典:資料1
グラフの数値を表で読む
国・年死亡率の低下率
欧州68
東南アジア48
米州38
西太平洋38
東地中海21
アフリカ3

図の棒が長い欧州は、最も危険な地域という意味ではない。低下率が大きい地域という意味だ。反対に、アフリカの短い棒は、問題が小さいことを示さない。WHOによると同地域の2021年の死亡率は人口10万人当たり5.6人で、6地域中最も高かった。高い水準からほとんど下がらなかった地域と、大幅に下がった地域を、一つの「世界で38%減」という言葉が包んでいる。[資料2]

ここでの地域はWHOの行政区分で、一般的な大陸区分とは同じではない。米州の傾向をそのまま米国の傾向と呼んだり、西太平洋地域の値を日本の値と呼んだりはできない。図1は、地域の内部にある国別の違いをさらに平均した値だ。ある地域で死亡率が下がった事実から、そこに含まれるすべての国で同じ幅の改善があったとは判断できない。

地域差の背景を考える手掛かりとして、WHOは国の予防計画の整備状況も調べた。全国的な戦略または計画がある国の割合は、アフリカ地域では15%、欧州地域では45%だった。ただし、これは死亡率の差を計画だけで説明できるという証明ではない。政策の有無を答えた調査と、死亡率の長期推計は別の情報である。計画の実施時期や実際の予算、暮らしの中で水に接する場面まで追わなければ、効果を切り分けられない。[資料2]

米国も、長期では子どもの死亡率が下がっていた

米国疾病対策センター(CDC)の国立保健統計センターがまとめた1999〜2019年の記録では、0〜17歳の不慮の溺水死亡率は人口10万人当たり1.6人から1.0人に下がった。1〜4歳に限っても3.2人から2.4人へ低下している。まず確認したいのは、近年の増加の前には、米国にも長期の改善があったという点だ。[資料3・図1、図2]

ただし、その改善は子ども全員に均等に届いたわけではない。同資料では、非ヒスパニックの黒人の子どもの死亡率は1999年の2.7人から2003年の1.6人まで低下した後、2019年まで統計的には横ばいと判定されている。農村部に住む子どもの死亡率は1999年に2.2人、2019年に1.6人で、都市部を一貫して上回った。全国平均の下向きの線の下にも、改善が止まった集団や差が残った地域がある。[資料3・図3、図4]

農村と都市は事故が起きた場所の区分ではなく、亡くなった子どもの居住する郡の区分である。農村の値が高いことを、そのまま川や湖の危険度の比較と読むことはできない。ここで分かるのは、住む地域によって人口当たりの死亡頻度が異なるというところまでだ。水域への近さや救助までの時間など、考えられる仕組みを確かめるには追加の情報が必要になる。

また、この長期資料が数える死因はWHOと同じW65〜W74である。次に見る2019〜2022年のCDC報告は、それに水上交通に伴う溺水のV90とV92を加えている。両資料に2019年の1〜4歳が2.4人と書かれていても、同じ小数になることと、集計の範囲が完全に同じであることは別だ。そのため、古い資料と新しい資料を縫い合わせた一本の長期折れ線にはしない。

増加のタイミングは、幼児・若者・高齢者で違った

CDCの2024年の報告によると、米国の不慮の溺水死亡者数は2019年の4067人から、2020年に4589人、2021年に4677人となり、2022年は4509人だった。2022年は直前の年より少ないが、2019年より442人多い。「前年より改善」と「感染拡大前より高い」は同時に成り立つ。どの年を基準にするかで、変化の説明は変わる。[資料4・表1]

年齢構成の違いを調整した全体の死亡率も、2019年を上回っていた。しかし、全体の値では上昇した時期の違いが見えにくい。図2では、同じCDC報告の表から1〜4歳、15〜24歳、65〜74歳を抜き出し、各年齢層の人口10万人当たりの死亡率を並べた。これは年齢別の率であり、全人口の年齢調整死亡率とは区別して読む。

全体の年齢調整死亡率は、2019年に人口10万人当たり1.2人、2020年と2021年に1.4人、2022年に1.3人だった。これは各年の年齢構成を2000年の米国の標準人口にそろえて計算した値である。したがって、高齢者の割合が増えたから全国の率が上がった、という説明だけでは済まない。同じ年齢の中で起きた変化を比較する必要があり、図2の年齢別の線がその手掛かりになる。[資料4・方法、表1]

米国の上昇時期は年齢で異なる。各年齢人口10万人当たり死亡者数(人)。数値は直後の表で確認できます。
図2 米国の上昇時期は年齢で異なる。対象:2019年〜2022年。単位:各年齢人口10万人当たり死亡者数(人)。米国居住人口、男女計。死因W65〜W74に水上交通事故V90・V92を含む不慮の溺水。3年齢層を選択した年齢別死亡率で、年齢調整値ではない。表の小数第1位の公表値を使用。欠測と補間はない。信頼区間は図に表示しないため、線の上下だけで有意差を判定しない。 出典:資料4
グラフの数値を表で読む
国・年1〜4歳15〜24歳65〜74歳
20192.41.11.5
20202.71.41.5
20213.11.11.6
20223.11.11.8

1〜4歳は2019年の2.4人から、2020年2.7人、2021年3.1人、2022年3.1人へ上がる。死亡者数は順に382人、425人、476人、461人だった。2022年は人数が前年より減ったのに、丸められた率は同じ3.1人になる。人数と率が違う動きをすることに加え、小数第1位までの表示では細かな動きが隠れることにも注意したい。[資料4・表1]

15〜24歳では別の形が現れる。率は2019年の1.1人から2020年に1.4人へ上がり、2021年と2022年はともに1.1人だった。CDCが丸める前の値で計算した2020年の増加率は31.3%で、統計的に有意だった。一方、2021年と2022年の2019年との差は有意ではない。若者の線は感染拡大初年に山をつくるが、幼児の線はその後も高い位置にある。すべての年齢が同じ時期に同じように動いたわけではない。

65〜74歳は2019年と2020年が1.5人、2021年1.6人、2022年1.8人で、後ろの年ほど高い。2022年の死亡者数は607人で、1〜4歳の461人より多かった。それでも人口当たりの率は、1〜4歳の3.1人を下回る。何人が亡くなったかを並べた順位と、その年齢の人にどれほど頻繁に起きたかを並べた順位は違う。この違いは、幼児向けの対策だけを見ていては高齢者の負担を見落とす理由にもなる。

図2の線は発表表の小数第1位の値を使っている。1〜4歳の2.4人から3.1人への変化をこの二つの値だけで計算すると約29.2%になるが、本文冒頭の28.3%はCDCの公表した増加率だ。CDCは計算に使う率を小数第4位まで扱い、図表には小数第1位で示している。表示値からの再計算と原資料の増加率が少し違うのは、そのためである。図から読み取った概数と、資料に掲載された推定値を混ぜないことが大切だ。

図2に入れていない5〜14歳の記録を見ると、「子どもでは増加」というまとめ方も広すぎることが分かる。2019年の死亡者数は240人、2022年は230人で、死亡率はいずれも人口10万人当たり0.6人だった。CDCが細かな率から算出した変化率はマイナス3.9%だが、統計的に有意な減少ではない。幼児と学齢期の子どもをまとめてしまうと、幼児で明瞭だった増加が薄まったり、反対に学齢期まで一様に悪化したように受け取られたりする。[資料4・表1]

1〜4歳の2022年の増加率28.3%には、95%信頼区間として10.9〜45.7%が添えられている。対して2020年の増加率12.9%の区間はマイナス2.7〜28.5%で、変化がないという値も範囲に入る。この違いが、前者は有意、後者は有意でないとする根拠だ。有意でないことは、実際に変化が全くなかったという証明ではない。図の幼児の線が2020年に上がって見えることと、その年の増加を統計的に断定できないことは両立する。

高齢層でも、目立つ増加率をそのまま最大の悪化と決めつけられない例がある。85歳以上の2021年の死亡率は2.4人で、2019年比49.8%増だった。しかしCDCは、2021年と2022年には人口推計の方法が以前と異なり、とりわけ2021年の85歳以上の分母に影響して、上昇の一部に寄与した可能性を記している。図2に選んだ65〜74歳についても人口推計の変更は共通の留意点だが、最高齢層の急変には特に踏み込んだ検討が必要だ。[資料4・限界、表1]

「子どもの水難」は、年齢で現場が入れ替わる

年齢差には、水に出会う場面の違いが重なる。先ほどの長期資料は、2018〜2019年の2年をまとめて事故の場所も調べている。1歳未満の死亡では75%が浴槽だった。1〜4歳では59%がプールで、自然の水域は21%。14〜17歳では自然の水域が62%を占めた。乳児、幼児、十代後半では、最も多い現場そのものが入れ替わっている。[資料3・図5]

この割合の分母は、各年齢層の溺水死亡者数である。子ども全員のうち何%が浴槽やプールで亡くなったという意味ではない。プールで過ごした時間のうち何%が事故になったという意味でもない。また、この場所別集計は2018〜2019年であり、2021年や2022年の幼児の増加がプールで起きたと直接証明する資料ではない。それでも、年齢を一括りにした水難のイメージを修正するには、十分に具体的な違いだ。

乳児には家庭の浴槽、幼児にはプール、十代後半には川や湖や海というように、死亡が集中する環境は成長とともに変わる。「水泳が得意かどうか」だけで説明しようとすると、浴槽で起きる乳児の死亡も、囲いのないプールに近づく幼児の事故も捉えにくい。これは生活から切り離された統計ではなく、入浴、遊び、外出の範囲が広がる過程を映した記録でもある。

泳げない人の割合だけでは、死亡の差は説明できない

CDCは死亡記録とは別に、2023年10〜11月の成人調査で水泳の経験も尋ねた。「泳ぎ方を知らない」と答えた人は全体で15.4%、水泳のレッスンを一度も受けたことがない人は54.7%だった。泳げないことと、正式に教わったことがないことは別の状態だ。後者をそのまま米国成人の半数以上は泳げない、と書くと調査の意味が変わってしまう。[資料4・表2]

男女別では、泳ぎ方を知らないと答えた割合は女性19.4%、男性11.2%で、女性のほうが高かった。ところが、2019〜2022年の死亡記録では男性の年齢調整死亡率が女性を上回っている。技能についての自己申告の順位と、死亡率の順位は逆だった。泳力だけを一つ取り出して死亡の差を説明する見方では、この組み合わせは理解しにくい。水に接する頻度や場面など、技能以外の条件も考える必要がある。

年齢別でも分母の違いが効いてくる。同じ成人調査で、過去6か月にプールで時間を過ごした人の割合は18〜29歳が59.0%、65歳以上が37.9%だった。高齢者の死亡率が高いからといって、高齢者のほうが頻繁にプールへ行くとは限らない。人口当たりの死亡率と、水に接した回数や時間当たりの死亡率は別の指標だからだ。ただし、調査年と死亡記録の対象年は異なり、年齢の区切りも違うため、この数字から1回当たりの事故率を計算することはできない。

学ぶ機会の差も記録されている。水泳のレッスン経験者は、非ヒスパニックの白人成人では51.8%、黒人成人では36.9%、ヒスパニック成人では28.1%だった。CDCは、施設へのアクセスや歴史的な排除を含む社会的な背景を論じている。これらの区分は米国の調査上の分類であり、生物学的な泳力の分類ではない。数字が示すのは、学ぶ機会が集団によってそろっていないという事実だ。

この機会の差について、CDCの考察は公共プールの歴史を具体例にしている。人種隔離によって利用できる施設が限られ、統合が義務づけられた後にも閉鎖や会員制施設の制限が残ったという経緯だ。これは、泳ぎを学ぶかどうかが本人の関心だけでは決まらないことを示す背景である。近くに通える施設があり、指導者がいて、費用や利用条件を満たせることが、経験の蓄積を左右する。ただし、この歴史から今回の死亡増加のうち何人分を説明できるかまでは算出されていない。[資料4・考察]

感染拡大と重なった増加を、どこまで説明できるか

CDCは、感染拡大期に監視のある水泳施設やレッスンが利用しにくくなったことなどを、増加の背景として挙げている。しかし、死亡記録と成人の自己申告調査を組み合わせても、個々の死亡の原因までは特定できない。例えば、幼児の増加は2020年には有意ではなく、2021年と2022年に有意だった。単に「施設が閉まった年に全員の事故が増えた」という説明では、年齢ごとの時差を説明しきれない。[資料4・考察]

調査の設計にも違いがある。死亡記録は亡くなった人を数えるのに対し、成人調査はオンラインの確率標本パネルに回答した人の自己申告を、重み付けして成人全体へ推計したものだ。泳力の実技試験ではなく、亡くなった人の受講歴を調べたものでもない。そのため「レッスン未経験者が死亡増の何割を占めた」といった数字は、この資料から出せない。

一方、資料が確実に示す違いは鮮明だ。世界の21年間の減少は地域によって3%から68%まで開き、米国の近年の上昇は年齢によって山の年が違った。米国の子どもについては、長期の改善と、その後の幼児の上昇を別々の資料で確認できる。事故が多い場所も浴槽、プール、自然の水域へと変わる。水難の数字を生活に引き寄せて読むには、「どの地域の、何歳の、どの期間の、どこまで含めた死亡か」をそろえることが出発点になる。

この記事で扱った対象年は、世界の長期比較が2000〜2021年、米国の長期の子どもの比較が1999〜2019年、近年の死亡記録が2019〜2022年、成人調査が2023年である。2026年10月19日に資料を確認したが、これらを2026年の事故状況として扱ってはいない。世界の改善を知りながら、特定の年齢層の反転も見逃さない。その両方を可能にするのが、平均を開いて比べる読み方だ。

一次資料:WHO:Global status report on drowning prevention 2024(WHO刊行、Bloomberg Philanthropies掲載PDF)、WHO:Drowning deaths decline globally but the most vulnerable remain at risk(2024年12月13日)、CDC/NCHS:Unintentional Drowning Deaths Among Children Aged 0–17 Years: United States, 1999–2019(Data Brief 413)、CDC:Vital Signs: Drowning Death Rates, Self-Reported Swimming Skill, Swimming Lesson Participation, and Recreational Water Exposure — United States, 2019–2023(MMWR、2024年)

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