投票率がほとんど変わらなかった選挙で、人々の参加も足踏みしていたとは限らない。欧州議会が公表する確定結果では、欧州連合全体の投票率は2019年の50・66%から2024年の50・74%へ、わずか0・08ポイントの上昇だった。ところが同じ5年間に、ドイツは61・38%から64・74%へ上がり、イタリアは54・50%から48・31%へ下がった。全体の横ばいの下で、投票へ向かう人の割合は反対方向へ動いている。
さらにドイツの統計を年齢別に開くと、若い層の投票率が上がっても、高齢層の存在感が弱まるとは限らないことが分かる。2024年の欧州議会選挙では16・17歳が初めて有権者に加わった。それでも60歳以上は有権者全体の40・2%を占め、30歳未満の15・5%を大きく上回る。投票する割合と、その年齢層に何人の有権者がいるか。この二つを重ねると、欧州の「約半分が投票した」という数字の奥に、かなり違う風景が現れる。
最初に、何を分母にした投票率か
この記事で比べるのは、国の政権を直接選ぶ総選挙ではなく、欧州議会の選挙である。図1の国別・全体の数値は欧州議会の結果サイトにある確定結果を用いる。投票率は選挙権を持つ人々のうち、どれだけが投票に参加したかを示す。住民全員に占める割合ではなく、子どもを含む人口を分母にしているわけでもない。ドイツの公的統計では、有権者数と投票者数から投票率を計算している。
ここで投票した人と、特定の政党へ有効な票を投じた人も区別したい。ドイツの確定結果は2024年の有権者を6196万3020人、投票者を4011万4939人としている。この投票者には無効票を投じた人も含まれる。そのため投票率から、どれほどの人がある政党を支持したかは直接には読み取れない。「参加したか」と「誰を選んだか」は別の段階の数字なのである。
国際比較では選挙権の年齢や登録制度なども完全にはそろっていない。本稿の狙いは、同じ広域議会の選挙について、各国が公表した参加率の履歴を比べることにある。制度の違う国を、同じ条件で実験した結果として扱うわけではない。2026年10月21日に資料を確認し、図表の対象は2024年の選挙までとした。実行年の投票動向を推測で補うことはしていない。
20年間では、横ばいより大きな反転がある
欧州連合全体の投票率を少し長く辿ると、2004年は45・47%、2009年は42・97%、2014年は42・61%だった。その後、2019年には50・66%に上がる。2014年からの上昇幅は8・05ポイントで、2024年までの5年間の0・08ポイントとは桁が違う。直近だけを見れば足踏みでも、前の10年間まで含めれば、低い水準から持ち直した後の維持と読むことができる。
ただし、これは同じ国々だけで作った固定メンバーの平均ではない。2004年以降にはブルガリア、ルーマニア、クロアチアの加盟があり、2020年には英国が離脱した。2019年の全体には英国を含み、2024年には含まない。全体の率の差には、各国内の参加率の変化に加えて、集計する国の構成や有権者数の重みの違いも入りうる。0・08ポイントを、同じ人々の意欲がほぼ変わらなかった証拠にはできない。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | EU全体 | ドイツ | イタリア | スロバキア |
|---|---|---|---|---|
| 2004 | 45.47 | 43 | 71.72 | 16.97 |
| 2009 | 42.97 | 43.27 | 66.47 | 19.64 |
| 2014 | 42.61 | 48.1 | 57.22 | 13.05 |
| 2019 | 50.66 | 61.38 | 54.5 | 22.74 |
| 2024 | 50.74 | 64.74 | 48.31 | 34.38 |
図1は2004、2009、2014、2019、2024年の5回について、欧州連合全体とドイツ、イタリア、スロバキアを並べた。これら3か国はこの5回すべてにデータがあり、欠測を埋めずに同じ年を比較できる。全体の線はその時点の加盟国による公表集計であり、3か国を平均して作った線ではない。国を絞った線と全体の線を一緒に見ると、総合指標だけでは見えなかった方向の違いがはっきりする。
ドイツとイタリアは、同じ低下を経験していない
2004年の投票率は、ドイツが43・00%、イタリアが71・72%だった。イタリアが28・72ポイント高かったことになる。20年後にはドイツ64・74%、イタリア48・31%で、今度はドイツが16・43ポイント高い。最初と最後の順位が入れ替わっただけでなく、隔たりの向きが大きく反転している。欧州の人々が一緒に政治から離れ、あるいは一緒に戻ってきたという描写では、この2本の線を説明できない。
途中を見ると、ドイツは2009年に43・27%、2014年に48・10%、2019年に61・38%へ上がった。直近の5年間の上昇は3・36ポイントだが、その前の5年間には13・28ポイント上がっている。2004年から2024年まででは21・74ポイントの上昇となる。2024年の高い水準は、その年だけに突然生まれたものではなく、少なくとも図に示した期間では、複数回の選挙を通じた上昇の先に位置している。
対してイタリアは、2004年の71・72%から、2009年66・47%、2014年57・22%、2019年54・50%、2024年48・31%と、ここに示した5回で連続して下がった。20年間の低下幅は23・41ポイントである。ドイツと異なるのは、直近の上下だけではない。2004年にかなり高かった参加率が、複数回の選挙をまたいで下がり続けるという履歴そのものが違う。
この2か国の差が、そのまま特定の制度や政党への評価を表すとは言えない。率の表には、人々が投票した理由や棄権した理由は記録されていないからだ。一方、数値から確実に言えることもある。イタリアの直近の低下を2024年だけの出来事に閉じ込めると、それ以前から続く下降を見落とす。ドイツの直近の上昇を小さいと見ると、2014年以降に積み上がった回復を見落とす。説明の出発点をどの年に置くかで、見える問題が変わるのである。
伸びた国が、高い国になったとは限らない
スロバキアの線には、別の発見がある。2004年16・97%、2009年19・64%から、2014年には13・05%へ下がった。その後は2019年22・74%、2024年34・38%へ上昇している。2019年からの伸びは11・64ポイントで、同じ期間のドイツの3・36ポイントより大きい。2014年と比べれば21・33ポイント増え、率の水準は約2・6倍になった。
それでも2024年のスロバキアは、ドイツの64・74%より30・36ポイント低い。「伸びが大きい」と「投票率が高い」は別の問いなのである。前者は過去との差を測り、後者は今の水準を測っている。低い出発点から大きく伸びる国を低水準という一語で片づけても、高水準から下がる国を以前の印象のまま扱っても、どこが変わったのかを捉えられない。
生活に引き寄せれば、これは学校の成績や家計収入を読むときにも似た区別になる。いまの位置と、そこまでの移動距離を一つの順位で示すことはできない。スロバキアでは2014年から2024年への回復が大きく、イタリアでは同じ期間に8・91ポイント下がった。欧州全体の2019年以降の小さな変化は、このように異なる方向の動きと、国ごとに違う有権者の重みが合わさった結果として読む必要がある。出典:欧州議会・投票率の確定結果。
国の平均を、さらに年齢で分ける
では、上昇が続いたドイツでは、どの世代が投票へ向かったのだろうか。ここからはドイツ連邦選挙管理官の代表選挙統計を用いる。これは人々に後から投票したかを尋ねる意識調査ではない。抽出した選挙区で有権者や投票を年齢層別に集計し、全体へ推計する公的統計である。2024年は2336の投票区が抽出され、対象となった有権者は約190万人だった。年齢別の数字には、この標本から推計した値という性格がある。
図1のドイツの投票率は小数第2位までの64・74%、年齢別統計の全体は小数第1位までの64・7%と表記される。本稿では、それぞれの資料の精度を保って使い分ける。また年齢区分は厳密な誕生日で切った満年齢ではなく、出生年の集団から作ったおおよその年齢である。図2の「16~20歳」なども、原資料が説明のために付けた年齢帯として読む。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | 投票率 |
|---|---|
| 16~20歳 | 60.3 |
| 21~24歳 | 57.7 |
| 25~29歳 | 60.4 |
| 30~34歳 | 60.9 |
| 35~39歳 | 62 |
| 40~44歳 | 63.1 |
| 45~49歳 | 65.7 |
| 50~59歳 | 68.2 |
| 60~69歳 | 68.9 |
| 70歳以上 | 64.7 |
2024年の投票率は、16~20歳が60・3%、21~24歳が57・7%、25~29歳が60・4%だった。そこから30~34歳60・9%、35~39歳62・0%、40~44歳63・1%、45~49歳65・7%と上がる。50~59歳は68・2%、60~69歳は68・9%で、70歳以上は64・7%となる。図2では公表された10区分を省かず、そのまま並べた。
最も低い21~24歳と、最も高い60~69歳の差は11・2ポイントである。ただし「年を取るほど必ず投票する」という一直線の関係ではない。70歳以上の率は60~69歳より4・2ポイント低く、最も若い16~20歳は、その次の21~24歳より2・6ポイント高い。若者と高齢者の二つだけに分けると、両端にあるこの折れ曲がりが消えてしまう。
いちばん伸びたのは、最年少の層ではなかった
ドイツの選挙管理官は、2019年から2024年にすべての年齢層で投票率が上がったと報告している。上昇幅が最も大きかったのは35~39歳で、55・4%から62・0%へ6・6ポイント増えた。25~29歳も54・0%から60・4%へ6・4ポイント上昇した。若年層の参加を論じるとき、投票できるようになったばかりの人へ目が向きやすいが、働き盛りに近い層の変化も大きかったのである。
対照的に60~69歳は66・4%から68・9%へ2・5ポイントの上昇だった。25~29歳との隔たりは2019年の12・4ポイントから2024年の8・5ポイントへ縮まった。若い層は依然として平均より低いが、年長層との差を縮めたという変化も同時に起きている。「若者の投票率が低い」という断面の記述だけでは、この前進が見えない。
16~20歳の60・3%は、2019年の最年少区分の58・6%より1・7ポイント高い。ただし、以前の区分は18~20歳であり、2024年は16・17歳を加えた区分になっている。この比較を、同じ年齢条件で若者の参加意欲が上がった値と読むことはできない。選挙権を広げた効果を知りたい場合も、区分全体の差だけで新たな有権者の行動を特定することはできない。制度の変更は、率の分母そのものを変えているからだ。出典:ドイツ代表選挙統計、概要表5・6と方法説明。
一票の重さが同じでも、集団の票数は同じにならない
ドイツの2024年の有権者を見ると、60歳以上は約2490万人、30歳未満は約960万人だった。2019年にはそれぞれ約2330万人と約870万人である。若い側には2024年から16・17歳を含むという違いがある。それでも、60歳以上の人数は30歳未満の2倍を超えている。選挙権年齢を下げることと、有権者全体の年齢構成が若返ることは、同じ結果を保証しない。
この人数差に、図2の投票率の差が重なる。原資料の年齢別推計人数を足すと、60~69歳と70歳以上の投票者は合計1657万9405人、30歳未満の3区分では573万4310人となる。前者は後者の約2・9倍である。人数は標本からの推計であり、一人単位の精密さを強調するための値ではないが、表の計算を再現すると、人口構成と参加率が一緒に作用する規模が分かる。
同じ足し算で、60歳以上は全投票者の約41・3%、30歳未満は約14・3%になる。有権者全体に占める割合は40・2%と15・5%だったから、投票に参加した人だけを取り出すと、高齢側の割合は少し大きく、若い側の割合は少し小さくなる。ここで示したのは投票者の構成であり、有効票や政党別の支持の構成ではない。高齢者が同じ意見を持つとか、若者と必ず対立するといったことを示す計算でもない。
住まい、交通、教育、年金のように、生活の段階によって接点が変わる政策を考えるとき、この区別が役立つ。ある年齢層の投票率が大きく伸びても、もともとの人数が少なければ、全投票者の中で占める割合は限定される。一方、人数が多い層は、参加率がわずかに動くだけでも多数の票に関わる。ドイツで若い層の参加が改善しながら高齢層の存在感も大きいのは、矛盾した現象ではなく、人数と率を掛け合わせた結果なのである。出典:ドイツ選挙分析、表3・12。
同じ年齢帯を追うことと、同じ人を追うこと
年齢別の変化には、もう一つ具体的な読み方がある。ドイツの有権者数は、50~59歳では2019年の約1245万人から2024年の約1040万人へ減った。一方、60~69歳は約1011万人から約1128万人へ増えた。最年少の区分が選挙権の拡大で増える間にも、その反対側では大きな人数が年長の区分へ移っている。若い有権者が新たに加わる変化と、年齢構成全体の変化を、別々に見る必要がある理由がここにある。
ただし、この二つの人数差を、そのまま50歳代から60歳代へ移った人数と解釈することもできない。5年間の間には、それぞれの区分へ入る人と出る人があり、死亡や移動などでも有権者の構成は変わる。公表表は各選挙時点の集団の規模を示しているのであって、一人ひとりを追跡した台帳ではない。「2019年の若者」と「2024年の若者」は同じ人々ではないということは、投票率の比較にも当てはまる。
たとえば2019年に25~29歳だった人々は、5年後にはおおむね30~34歳に当たる。同じ25~29歳という行を比較した6・4ポイントの上昇は、ある固定した集団がその分だけ積極的になったことを直接示さない。学校や仕事の段階とともに起こる変化と、選挙ごとの状況の違い、新しくその年齢帯へ入った人々の違いが重なる。同じ年齢帯の参加率の改善という事実は保ちつつ、個人の成長物語まで付け足さないほうが、数字の射程を正確につかめる。
男女の平均差も、年齢を重ねると姿が変わる
ドイツの代表選挙統計には、年齢と性別を組み合わせた値もある。2024年の全体の投票率は、男性区分64・6%、女性64・9%で、差は0・3ポイントだった。ところが21~24歳では男性区分55・5%に対して女性60・1%で、女性が4・6ポイント高い。70歳以上では男性区分68・5%、女性61・8%となり、逆に男性区分が6・7ポイント高い。全体の小さな差だけを見ると、年齢によって方向まで違うこの関係が隠れる。
原資料では、少数の回答区分から個人が推測されるのを防ぐため、出生登録上の性別が多様である人や記載のない人も男性の区分にまとめている。そのため、ここでは男性区分と表記した。この集計上の扱いも含め、表の分類は日常の言葉と必ずしも完全に重ならない。投票率の差の理由を身体的条件や家族の事情と結び付けるには別の資料が必要だが、年齢をそろえない平均比較では具体的な差を取り逃がすことは、この表だけでも確かめられる。
全国の男女の率が近いのは、すべての年齢層で差が小さいためではない。それぞれの年齢層の人数と、その中で投票した割合を合計した結果が近いのである。欧州全体で各国の動きを足し合わせたときと同じ問題が、一つの国の中にもある。国、年齢、性別という分け方を一段加えるたびに、何が平均を押し上げ、何が押し下げているかの説明が変わる。出典:代表選挙統計の概要表3・5と分類の説明。
「欧州の半分」を、三つの縮尺で読む
欧州議会選挙のログを辿ると、同じ数字を拡大するたびに問いが変わる。全体では2014年の42・61%から2019年に50・66%へ持ち直し、2024年は50・74%だった。国別では、2004年にイタリアより低かったドイツが20年後には上回り、スロバキアは低い水準から大きく回復した。さらにドイツの内部では、若い層の改善と高齢層の大きな人数が同時に存在していた。
こうした差のうち、統計が直接説明できるのは、どこで率が変わり、どの集団の人数が多く、その組み合わせが投票者の構成をどう変えたかである。政治への信頼や選挙運動の効果まで、率の表だけで決めることはできない。ただ、全体の横ばいを人々の一様な無関心と結び付ける説明や、選挙権を広げればすぐ若い世代の票が中心になるという見方は、今回の数値とは合わない。
2024年の欧州の投票率は約半分だった。その短い事実を理解するために必要なのは、一つの順位を覚えることよりも、集計の地図を開くことだ。同じ選挙の時系列を辿り、国を分け、年齢を分け、最後に人数へ戻す。ドイツの64・74%とイタリアの48・31%、ドイツの21~24歳の57・7%と60~69歳の68・9%は、その地図にある具体的な座標である。平均の中に誰が何人いるのかまで見ると、投票率は政治への気分を表す一語から、人々が議会へ声を届けた経路を読む記録に変わる。
一次資料:欧州議会:2024 European election results — Turnout(国別・年別の確定結果)、ドイツ連邦選挙管理官・連邦統計庁:Europawahl 2024, Heft 4(年齢別代表選挙統計、2025年1月)、ドイツ連邦選挙管理官:Europawahl 2024, Heft 5 Teil 2(分析・年齢別人数、2025年5月)、ドイツ連邦選挙管理官:若年層の投票率と60歳以上の有権者構成、2025年1月24日公表