回収ボックスが増え、古い家電を資源に戻す工場も動いている。それでも世界の電子ごみは、回収の手が届く速度を上回って増えていた。国際電気通信連合(ITU)と国連訓練調査研究所(UNITAR)がまとめた『Global E-waste Monitor 2024』では、世界の年間発生量は2010年の3,400万トンから2022年の6,200万トンへ増加した。同じ期間、正式な回収・再資源化が記録された量も800万トンから1,380万トンへ増えている。
回収量の増加だけなら前進に見える。ところが発生量との差を取ると、2,600万トンから4,820万トンへ広がった。回収側が止まっていたからではなく、その外側がもっと速く膨らんだのである。さらに2022年の地域比較では、欧州は一人当たりの発生量も正式な回収・再資源化率も高い。ごみを多く出す地域と、回収が進む地域が重なるところに、この問題の読みどころがある。
以下は2026年10月22日に確認した一次資料に基づく、2010〜2022年の比較である。報告書名の2024年は刊行年で、世界集計の対象年は2022年だ。現在の発生量を測った記事ではなく、同じ版の統計に収められた過去の変化と地域差を読む。将来予測を実績に混ぜず、重量、人口当たり、回収割合という三つの物差しを使い分ける。出典:報告書第3章
電子ごみは、スマホだけの話ではない
電子ごみという呼び名から、使わなくなったスマートフォンやパソコンの山を思い浮かべるかもしれない。しかし、この統計の電気・電子機器には冷蔵庫、洗濯機、テレビ、照明、電動工具、おもちゃ、太陽光パネルまで入る。持ち主が再使用を意図せず廃棄した時点で、電子ごみとして扱う。通信や情報処理をする機器だけを数えた統計ではない。
一方、単独の電池や蓄電装置は別の廃棄物の流れとして扱われる。車両の一部としてしか機能しない組み込み機器なども、この報告の電気・電子機器とは区別されている。「電気を使うものは全部」という日常語の感覚と、国際統計の集計範囲には差がある。この境界を押さえると、電動車の普及台数をそのまま電子ごみの増加量に置き換えられないことも分かる。
また、量の単位は台数ではなく重量だ。重い洗濯機と軽い携帯電話を同じ一台として足すのではなく、含まれる機器全体を重さで捉える。したがって重い機器が多い地域では、捨てられた台数が同じでも重量が大きくなる。重量の増加を、そのまま買い替え回数の増加や個々人の浪費の証拠として読んではいけない。出典:第1章、付属資料1の指標定義
12年間に増えたのは、回収より発生のほうだった
図1は2010年と2022年の二つの時点を結んだものだ。元資料が明示する発生量と正式な回収・再資源化量を、百万トンに換算した。途中の各年を読み取って補った線ではない。世界の発生量は34から62へ、記録された正式な回収・再資源化量は8から13.8へ動いた。この二本の間隔が拡大したことに注目したい。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | 電子ごみ発生量 | 正式回収・再資源化 |
|---|---|---|
| 2010 | 34 | 8 |
| 2022 | 62 | 13.8 |
発生量の増加は2,800万トン、回収側の増加は580万トンだった。差し引きすると、正式な回収・再資源化として記録される流れの外側は2,220万トン増えたことになる。これは公表値の引き算であり、どこかの処分場で直接計測した量ではない。回収側の増加が目立っていても、それだけでは全体の改善を判断できない理由が、この引き算に表れている。
元の丸められた数値で増加率を計算すると、発生量は約82%増、回収量は約73%増だ。発生量の増分2,800万トンを回収量の増分580万トンで割ると約4.8倍になる。発表資料にある「約5倍の速さ」は、この増加量の開きを理解する手掛かりになるが、増加率が五倍になったという意味ではない。出発点が異なる二つの量なので、比率と増分を入れ替えると話が変わってしまう。
2022年の正式な回収・再資源化率は報告書の公表値で22.3%。2010年の丸め値で計算した800÷3,400は約23.5%となる。ただし、端数のある集計値で算出された公表割合と、丸めた総量の割り算は完全には一致しない。本稿では、微小な率の変動を細かく論じるよりも、回収の絶対量が増えながら発生量との差も大幅に広がったという、規模の変化を中心に読む。
4,820万トンは、全部が不法投棄ではない
発生量から正式な回収・再資源化量を引いた残りは、よく誤解される数字だ。これをすべて「リサイクルされず自然に捨てられた量」と呼ぶことはできない。報告書は正式な回収とは別に、一般の混合ごみへ入る経路、廃棄物管理の基盤がある国で正式な制度の外から集められる経路、その基盤が十分でない国の非公式な経路を分けている。
そこには金属くずとして取引され、何らかの資源回収が行われるものもある。しかし、金属が売れたことと、有害物質を安全に除去しながら適切に処理されたことは同じではない。銅など価値のある部分だけを取り出し、残りの扱いが不十分になる可能性がある。正式な回収・再資源化という指標は、単に物が誰かの手に渡ったかを超えて、制度に沿った管理を捉えようとしている。
正式な経路でも、回収した機器の全重量が新品の原料へ戻るわけではない。解体や分別、有害物質の除去、資源回収を進めた後には、処理すべき残りが出る。報告書の正式な経路の図では、2022年に金属約600万トンが経済へ戻る一方、金属約100万トンが失われるか、回収に至らなかったと整理されている。22.3%を「機器の中の素材を22.3%取り戻せた」という歩留まりに読み替えないことが大切だ。出典:第2章の処理経路、第3章の図6、付属資料1
欧州は回収の先頭に立ち、発生量も大きい
次に同じ2022年の地域を比べる。図2は、各地域で発生した電子ごみの重量に対する、正式な回収・再資源化が記録された重量の割合だ。欧州42.8%、オセアニア41.4%、米州30.0%、アジア11.8%、アフリカ0.7%。五つの地域には大きな開きがある。ここでいう欧州は報告書の地域区分であり、欧州連合の加盟国だけを切り出したものではない。

グラフの数値を表で読む
| 国・年 | 正式回収・再資源化率 |
|---|---|
| 欧州 | 42.8 |
| オセアニア | 41.4 |
| 米州 | 30 |
| アジア | 11.8 |
| アフリカ | 0.7 |
回収率の棒だけを眺めると、欧州が問題をほぼ解決し、アフリカだけに課題が残るようにも見える。しかし一人当たり発生量を重ねると見え方が変わる。欧州は17.6キログラム、オセアニア16.1キログラム、米州14.1キログラム。アジアは6.4キログラム、アフリカは2.5キログラムだった。欧州の一人当たり発生量は、アフリカの約7倍である。
欧州で正式な回収・再資源化が記録された量は一人当たり7.53キログラムだった。発生量17.6キログラムから単純に差し引くと約10.1キログラムが正式な記録の外にある。これはアフリカの一人当たり発生量2.5キログラム全体より大きい。回収率が高い地域でも、ごみを生み出す量が多ければ、正式な管理の外に残る重量は小さくならないことがある。
アフリカで正式に記録された量は一人当たり0.018キログラム。単位を変えると18グラムである。ただし、これは全住民が平均して18グラムだけ持ち込んだという家計調査の結果ではなく、地域の集計量を人口で割った数字だ。低い記録量には回収基盤や統計の整備状況も関わる。地域内の国ごとの違いや、非公式な取引まで一つの平均から知ることはできない。出典:第3章の図7
アジアの総量と、日本の一人当たりは違う話
総量の地図ではアジアの存在感が大きい。付属資料2の地域集計で、2022年のアジアの発生量は30,147百万キログラム、約3,015万トンだった。世界の丸め値6,200万トンのおよそ半分に当たる。一人当たりでは欧州より少なくても、人口規模が大きいため、機器を回収して処理する仕組みに必要な総容量は大きくなる。
ただし、アジア平均を日本の姿と考えると間違う。同じ報告書の国別表では、中国の発生量は12,066百万キログラム、日本は2,638百万キログラム。一人当たりでは中国8.5キログラム、日本21.2キログラムだった。総量では中国が日本を大きく上回るが、人口で割ると日本のほうが約2.5倍となる。規模を問う比較と、暮らしや機器保有の濃さを問う比較では順序が変わる。
日本の21.2キログラムは欧州平均17.6キログラムも上回る。これは日本の全家庭が毎年同じ重さを捨てたという意味ではなく、事業所などの消費から生じる分も含む国全体の推計を人口で割った値だ。家族の人数に掛けて自宅の廃棄量と照合する数字ではない。国全体の機器利用と、個人が目にするごみの量の間には、こうした集計範囲の違いがある。出典:表A2.2、国別表のChina・Japan行
回収網が強い地域ほど、ごみも多くなる背景
報告書は、購買力が高い地域ほど一般に機器へのアクセスが多く、電子ごみも多くなる関係を示している。冷蔵庫や洗濯機が広く普及することは、食料を保存し、家事の手間を減らす生活の変化でもある。ごみの重量だけを見て、機器が少ない社会のほうが暮らしの条件も優れていると結論することはできない。
一方、高い所得や長年の機器普及は、回収網と処理施設を整える土台にもなる。欧州やオセアニアは発生量が多い一方で、正式な回収を支える基盤も比較的進んでいると報告書は説明する。だから地域の順位は、環境意識だけの順位ではない。保有する機器の構成、買える量、過去に整備した制度、利用できる回収経路が重なった結果として読む必要がある。
こうした地域比較は背景の構造を理解する材料だが、特定の制度が回収率を何ポイント押し上げたかを測る実験ではない。同じ地域でも国ごとに対象製品や運用が違うし、正式な記録の外で行われる回収も異なる。「豊かな地域ほど回収率が高い」という関係から、その原因を所得だけに絞ることもできない。発生側と回収側の双方に共通の条件が影響する点に、この比較の面白さがある。
最大の山は、身近な小型機器の寄せ集め
製品別では、小型機器の発生量が2022年に20.4百万トンで最大だった。世界全体のほぼ三分の一である。報告書が例に挙げるのは掃除機、電子レンジ、トースター、電気ケトル、電気かみそり、おもちゃなど。小さいから総量も少ない、とは限らない。暮らしのあちこちに入った機器を積み重ねると、最も大きな山になる。
この区分の正式な回収・再資源化量は2.4百万トン、割合は丸めて12%。対して太陽光パネルを除く大型機器は15.1百万トン発生し、5.1百万トンが正式な回収・再資源化として記録され、割合は34%だった。大型機器より小型機器のほうが発生重量は大きいのに、正式な回収側の重量は小さいという逆転である。
報告書は、一般に大きく重い機器の区分ほど回収率が高いと指摘する。小型機器は製品が幅広く、ひとまとめの「家電リサイクル」という言葉では回収の難しさが見えにくい。冷蔵庫や洗濯機の経路が整っていても、それだけで小さな玩具や工具まで同じ割合で戻ってくるとは限らない。回収設備の能力に加えて、どの製品をどの入口から集めるかが総量を左右する。出典:第1章の機器分類、第3章の製品別集計
売った年と捨てる年の間に、時間差がある
世界で市場に投入された電気・電子機器の重量は、2010年の62百万トンから2022年の96百万トンへ増えていた。これはその年に捨てられた電子ごみの重量ではない。買ったばかりの機器が直ちにすべて廃棄されるわけではなく、家庭や事業所で使われ、ときには保管や再使用を経てから廃棄へ向かう。
このため、2022年の回収量を2022年の販売量で割っても、本稿の回収率にはならない。本稿の分母はその年に発生した電子ごみの推計量だ。制度上の目標には販売量を基準にするものもあるので、別の資料で見た割合と並べるときには分母の確認が欠かせない。発生量に対する割合と、市場投入量に対する割合は、同じ回収量からでも異なる答えになる。
発生量が増える背景として、報告書は機器消費の増大、製品の使用期間の短さ、修理の選択肢の少なさ、機器を組み込む製品の広がり、管理基盤の不足などを挙げる。ただし世界全体の増加2,800万トンを、それぞれの原因へ何トンずつ配分したわけではない。買い替えを減らせば全部解決する、あるいは処理施設だけ増やせば追い付く、と一本の原因にまとめる根拠は、この数字にはない。出典:第3章、付属資料1
計量器で世界中のごみを量った数字ではない
発生量の作り方にも、記録の性格が表れている。報告書は、生産・輸出入などから推計した市場投入量と、製品が使われる期間の分布を組み合わせて廃棄量を求める。過去に販売された機器が何年後に廃棄へ回るかを積み上げる方式だ。全世界の廃棄現場に計量器を置いて、同じ年に直接量った合計ではない。
そのため、機器の寿命や貿易統計の不足には推計上の仮定が入る。付属資料では、欧州で得られた使用期間のデータを、資料が不足する欧州以外にも適用していると説明する。修理して長く使う場合は発生量を過大に見積もる可能性があり、中古品や耐久性の低い機器が多い場合には逆方向も起こり得る。国別の小さな順位差を確定的な実測差と読むより、規模や構造の差を見るのに適した資料である。
回収側も、各国の質問票、国際機関の統計、行政資料などを組み合わせている。利用できない年は、近い年の回収割合などを使って補う方法が記載されている。本稿の「記録された量」には、報告書が整えた時系列としての推計も含まれる。正式な記録がないことと、誰も機器を集めていないことを同じに扱えないのは、そのためでもある。
さらに2024年版では、追加の国の資料や既存統計の改訂を使い、過去の系列を再構築したと明記している。以前の版で読んだ2010年の値と、今回の2022年の値をつなぐと、実際の変化に改訂の差まで混ざるおそれがある。図1の両端を同じ版にそろえたのは、この問題を避けるためだ。図の直線も、毎年同じ速さで増えたと主張するものではない。出典:図3の注記、付属資料1の算定方法
回収の成績と、ごみを生む規模を一緒に読む
ここまでの数字から分かるのは、「回収が進んだか」という問いには二つの答えがあるということだ。2010〜2022年に正式な回収・再資源化量は増えた。しかし発生量との間隔はさらに大きくなった。欧州は回収率で先行しているが、一人当たり発生量も多い。アジアは一人当たりでは欧州より少ないが、総量では世界の約半分を占める。
暮らしに引き寄せれば、古い機器を回収へ渡す行動は、この大きな流れの入口に当たる。ただし世界統計が測っているのは、個人の善意の量ではなく、どれだけの機器が廃棄へ回り、どれだけが正式な管理に入ったかだ。スマホを一台返した経験と、冷蔵庫や工具、業務用機器まで含む世界の重量の間には大きな距離がある。
回収量の増加を見たとき、同じ期間の発生量はどう動いたか。高い回収率を見たとき、人口当たりではどれだけ生まれているか。この二つを合わせると、回収技術や制度の前進と、電気機器を使う生活の拡大が同時に起きた12年間が見えてくる。6,200万トンという大きな数字の核心は、電子ごみが多いことだけでなく、回収側が増えても追い付かなかったという関係にある。
一次資料:ITU・UNITAR:The Global E-waste Monitor 2024(全文、第1〜3章・付属資料1、2)、ITU:The Global E-waste Monitor 2024(主要統計と2010〜2022年の比較)、UNITAR:Global e-Waste Monitor 2024 発表資料(2024年3月20日)